政府は、英国系投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)による電源開発株の追加取得について、「公の秩序の維持を妨げる恐れがある」などとして中止を勧告した。外為法に基づく外国人投資家への中止勧告は初めてだ。
TCIの計画は電源開発株の保有比率を9・9%から20%に高めようというものである。外為法では「国の安全」や「公の秩序」を守る観点から、外国人投資家が電力会社などの株を10%以上保有する場合は国の認可が必要とされ、TCIは今年一月に申請していた。
電源開発は本州と北海道、四国、九州を結ぶ長さ二千四百キロの送電線を有する。五月には青森県に「国の核燃料サイクル政策の要」と位置付けられる大間原発を着工する予定だ。
政府が重視したのが、こうした電源開発が担う役割の重さである。さらに短期投資による収益向上や経営への関与を求める恐れなどTCIの姿勢も危惧(きぐ)した。勧告は、原発や送電線に対する設備投資が滞るとの懸念を示すとともに、TCIが「電源開発の経営に一定の影響を及ぼす可能性がある」と明記した。
勧告に対して、TCI側は「事実認定に誤りがある。(外資を締め出すことで)日本経済に大きな悪影響を与える」などと強く反発した。政府は、勧告に従わなければ罰則を伴う中止命令を出す見通しである。
電力の安定供給が損なわれ、国民生活や産業活動などに大きな支障をきたす事態は避けなければならない。政府は「公の秩序」に関する業務は欧米でも外資規制が行われているなどとして正当性を強調する。
しかし、外資からの申請は年間百―二百件あるが、これまで政府はすべて認めてきた。今回の中止勧告が、海外投資家の間にある日本市場の閉鎖性への疑念を強めないか懸念される。
事態が差し迫るまでに政府は打つ手がなかったのか。二〇〇四年に電源開発が上場する際、政府は買収防衛策の導入を検討したという。だが、「初値を高く」と断念した。特殊法人の民営化、株式放出で国庫や電力会社に入る資金を最大限にする目的を優先させたためだ。
自らの都合で策を講じず、状況が悪くなって異例の強行措置に出ざるを得なくなった。国際的な信頼を失えば、海外投資家の日本離れを加速させることになりかねない。政府の十分な説明が欠かせない。恣意(しい)的な運用とみられては、国益を損なうことになろう。
免疫を持たないため、短期間で世界に大流行する恐れのある新型インフルエンザへの懸念が高まっている。政府は発生に備えた水際対策や備蓄ワクチンの事前接種などの方針を明らかにしたが、未曾有の脅威への備えは、まだ万全とはいえない。
新型インフルエンザは、人に感染しにくかった鳥インフルエンザウイルスなどが、人から人に感染しやすい性質に変わるなどして発生する。アジアを中心に鳥に広がっているH5N1型ウイルスが新型に変異する事態が最も懸念されており、政府は発生すれば国内で最大六十四万人が死亡すると推定する。
発生に備え、政府はベトナムやインドネシアなどで採取したウイルスを基に製造した約二千万人分のワクチンを備蓄している。厚生労働省はこの一部を、検疫や税関などの担当者や医療従事者ら約六千人に事前接種する方針を決めた。
最前線で対策に当たる人に基礎免疫をつけるのが狙いだ。有効性、安全性が確認されれば、社会機能の維持に必要な約一千万人に拡大することも検討している。副作用の有無や免疫効果について十分な検証が求められる。接種対象者の選定方法なども詰める必要があろう。
また、六カ月以上の子どもを対象にワクチンの用量を確認する臨床試験に乗り出すほか、新型発生後につくるワクチンの製造期間を従来の一年半から約三分の一に短縮する新技術の導入にも着手する。十分で確実な感染防御、製造体制の確立に向け、研究を急がねばなるまい。
在外日本人の速やかな帰国と外国人の入国制限を柱とした水際対策も公表されたが、完全に防御できる保障はない。新型対策は危機管理そのものだ。国や自治体、医療機関などが一丸となった取り組みが欠かせない。
(2008年4月18日掲載)