能登半島に十月―四月にかけて多量の発がん性物質が中国から飛来し、大気中でその濃
度が上昇していることが、金大大学院自然科学研究科の早川和一教授の調査で初めて確認
された。輪島上空ではほかの時期に比べて濃度は十倍以上となっていた。工場の排ガスに
加え、暖房のため大量に燃やされる石炭から出た有害物質が偏西風で運ばれたとみられる
。対岸の国で深刻化する大気汚染が越境している現実が浮き彫りとなった。
金大が輪島市西二又町に設けた大気観測施設で、二〇〇四年九月から毎日大気中の化学
物質を測定した。その結果、物を燃やした時に出る発がん性物質の多環芳香族炭化水素(
PAH)類の濃度が毎年十月中旬から四月中旬にかけて大幅に上昇していたことが判明し
た。
輪島に到達したPAH類などの発生源を特殊な気象の解析方法で調べたところ、瀋陽や
大連など中国東北地方を経由していると分かった。
PAH類にはディーゼル車など自動車の排ガスに含まれるものもあり、金沢市内でも検
出される。しかし、輪島と金沢、瀋陽の大気中PAHの組成を分析すると、輪島のPAH
は瀋陽に類似していたという。
中国の都市大気中のPAH濃度は、日本の都市の数十から数百倍に及ぶことが早川教授
の研究で分かっており、同教授はその一部が偏西風に運ばれて日本に達し、大気中の濃度
を押し上げていると結論づけた。
輪島で観測されるPAH濃度は金沢市中心部の交差点の濃度より低く、すぐに健康被害
が出るとは考えにくいという。しかし早川教授は「中国からやってくるのは黄砂だけでは
ない。発がん性物質を摂取し続けた場合の影響を検討したい」と話し、中国の研究者とも
協力して調査を続けることにしている。