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「日本の底力は『おもしろければなんでもあり』にあり」

マーティ・フリードマン氏(元メガデス・ギタリスト)インタビュー【前編】

 学生時代、はじめてのバイト代でコンポを買った。声に魅せられて岩崎宏美、アイドルだったら松本伊代、そのうち洋楽も聴き始め、ウォークマンで持ち歩き、クルマを買ったらカーステで…そんな自分だったのに、いつの頃からか、聴きたい音楽がすっかりなくなってしまった40代男性。それがわたくし。

 テレビの音楽番組でかかるのは、なんだか独りよがりの曲ばかりに聞こえるし、家族ができると、自分が好きな曲よりまずは子供の童謡だ。今、自分が聴きたい曲はどこに、いや、そもそもあるんだろうか。あるなら、どこで探せばいいんだろうか。

 「これじゃあ、音楽産業が元気ないのも無理ないな。そもそも『J-POP』なんて言い出した頃から、俺たち聴きたい曲がなくなってきたんだよ! ヘタウマとか、どこかの洋楽のパクリとか、自分の小さな幸せとか、なんだかそんな曲ばかりじゃないの?」…と、思っている方、私以外にもいらっしゃいませんか。

 ところが、そんな漠然とした思い込みに鉄槌を下す本を読んでしまった。筆者は「メガデス」というヘビーメタルバンドで全世界に1000万枚以上のセールスを記録したギタリスト、マーティ・フリードマン氏。彼は、J-POPの華原朋美、B'zの曲を来日時に聴いて衝撃を受け、バンド脱退後、日本に住み着いてしまったというのだ。

 恐ろしいのは、彼の視点にかかるとJ-POPの数々が「日本でしか生まれ得ない、ものすごく挑戦的な音楽」に見えてくることだ。だから、本で紹介されている曲を聴きたくなってくる(私は読み終えた直後に、iTMSで一気に24曲買ってしまいました)。彼は明治時代に日本美術を再評価するきっかけを作った、アーネスト・フェノロサのような存在、なのかもしれない。万事、悪い方に考えすぎて、自信喪失気味の日本だけど、マーティの目で見ると気分が変わってくる。ここはひとつ、「ニッポンのものづくり」を、そしてそれを支える人々を、素直に励ましてもらおうか。

(なお、マーティ氏の発言をできる限り忠実に再現するため、いくつかくだけた表現がございます。ご容赦下さい)

(聞き手、日経ビジネスオンライン 山中 浩之)

マーティ・フリードマン

マーティ・フリードマン
1990年代、ヘビーメタルバンド、メガデスのメンバーとなりアルバムセールス1300万枚超えの世界的なスーパーバンドへと導いたギタリスト。その後、J-POPに興味を持ち、メガデスを脱退。活動の拠点を東京に移し、ミュージシャンやプロデューサーとして活動している。3月12日にはセルフカバーアルバム「Future Addict」を発売した。
同時に、日本の音楽や日本語の魅力について、外国人やミュージシャンならではの視点で様々なメディアにおいて語っている。「日経エンタテインメント!」の連載「J−POPメタル斬り」も大好評。公式ページはこちら。「nikkei TRENDYnet」での連載はこちら

山中: 「音楽を聴かなくなったなぁ」と思ってから、ずいぶん経つんです。たぶんバンドブームの頃から、聴きたい曲が世の中に流れなくなったように思えて、結婚したら生活も変わって、音楽から離れてしまったんです。たまに耳に入ってくる曲があっても、「ちゃんと聴きたい」と思うきっかけがなかったんですね。ところがこの本を読むと、「え、J-POPって意外に音楽的にも奥が深いのか、なんだか面白そう」だなと、ものすごく久しぶりに、いま流れている曲を聴きたくなってきました。

マーティ: 普通、音楽にハマっている時期って、結婚する前のデートの時とか、ドライブに出掛けたりする時とかだよね。でも、結婚して子供が産まれて、ほとんど仕事と家で過ごすことになると、新曲を聴く環境じゃなくなる。

―― そうそう。新しい音楽を聴く場所やタイミングがなくなっちゃうんです。

マーティ: それはめちゃくちゃ「損」と思います。だって生活から音楽がなくなると悲しいでしょう。結婚して、ちゃんと仕事をやってることで、音楽を聴けなくなるのは避けたいと思いますね。でもね、音楽を探すのは自分の責任でしょう。ちょっと探せば、宝物をいっぱい見つけられますよ。

 それに、音楽と思い出はつながってるんです。結婚する前には楽しい思い出がたくさんあったでしょう。それって、その時に聴いた音楽とつながっているはず。

―― そうそう。それで、昔の曲ばかり聴いたりしている。

マーティ: でもそれは、逆に考えた方がいいんですよ。音楽は、これからの新しい思い出のBGMだって。家族や奥さんとの思い出と結びつける曲は、そのときに聴いていた曲なんです。だからぜひ、懐かしい曲じゃなくて、新しい曲を探して、楽しんで欲しいですね。

「パクリ」で影響を与え合う、それは音楽の基本です

―― ところが、我々の年代ぐらいになると、探す時にどうも思い込みがはいるんですよ。「J-POPは若い人向けで、つまらない」とか、「パクリだろ」とか、「洋楽のマネ」だとか……。

マーティ: 誰がそれを言いだしたのかは知らないけれど、それはバカな人だよね。どんな音楽でも、ミュージシャン同士、いろいろ影響しあってる。ビートルズだって、プレスリーから影響受けてるじゃん。プレスリーも、チャック・ベリーも、影響しあってるじゃん。

 どんなミュージシャンも、100%、誰かの影響を受けてるから、パクリとかそんなことは考えない方がいいんですよ。「その音楽が好きだから。好き」。誰かがパクったとか、パクリ=悪とか、もったいないよね、その考え方。だって僕、ビートルズは嫌いだけど、PUFFY大好き(笑)。

 そういうイメージは、すごく消えてほしい。だって、まったく同じように洋楽だってパクっているんだし。日本では元曲が分からないから、わからないのかな。それに……最近、アメリカのアーティストは日本のアーティストをパクってるよ。 ビジュアル系の影響が少しずつ入っているし、イメージだけじゃなくて、音楽のセンスもパクってる。僕の音楽だって、日本に住んでいる影響がいっぱい。みんな、お互いに影響あるんだから、そしてそれがいいんじゃない。

ジャンルがユルイから楽しい融合がいっぱい

―― この本の中で「えっ」と思ったのが、アメリカの音楽状況です。「ラップ、R&B、ロック、細かいジャンル分けがしっかりあって、そこから絶対に外れない」という話はすごく意外だったんですよ。あちらは音楽の先進国なのだから、いろいろ新しいことをやっていて、新しいジャンルや音楽がどんどん生まれているんだろう。そこからJ-POPはおいしいとこ取りをしてるんじゃ、ぐらいに思ってましたけど、そうではないんですか。

マーティ: アメリカでは確かにジャンルがしっかりしているんですが、結果的にその枠に縛られているんですよ。例えば向こうのヘビーメタルは、ほかのメタルバンドからはパクるけど、ラテン系の音楽からパクれない。ディスコミュージックからもパクれない。

 ところが日本では、ジャンル関係なしに好きだったらパクる(笑)。ほかのジャンルからパクっちゃダメ、みたいなルールがないから、結果的にはすごく冒険的に、面白いものが生まれてくる。たぶん失敗作も出るかもしれないけど、冒険する時って、そういうものでしょ。

 おかげで、メチャメチャ面白い、オリジナルな融合が生まれてくる。だから、日本でジャンル分けが強くないのは、とってもいいことだと思います。

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● サイン会案内

マーティ・フリードマン+SHELLY
トークショー&サイン会開催!

単行本発売を記念したイベント開催が決定。マーティ本人がJ-POP愛を熱く語るトークショーのほか、本を買っていただいた皆さんにはサイン&握手、さらにプレゼントまでつく豪華版です。さらに、トークショーのお相手として、伝説の深夜番組「Rock Fujiyama」で共演していた元気娘・SHELLYの参加も決定。是非、奮ってご参加ください!

【マーティ・フリードマン トークショー&サイン会】

4月23日(水)20時より
TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(東京・六本木)にて

問い合わせは、電話03-5775-1515(TSUTAYA TOKYO ROPPONGI)

イベントの詳細はこちらをご覧ください

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このコラムについて

EXPRESS X

 「ユーザーの顔が見えない」と言われる中で、自分自身の思い入れを武器に成果を上げている人々がいる。いわく言い難い個人の熱意(X)を、ビジネスとして組み立て、市場にいる買い手に思いの丈を伝える(EXPRESS)工夫を、本人へのインタビューを中心に、所属する組織や、市場規模の大小に関わらず紹介する。

「EXPRESS X」の過去記事(3月28日掲載分まで)

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著者プロフィール

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集などを経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長

ビジネス マネジメント フォーラム
〜逆境を乗り越える経営〜世界同時不況に備えあり〜

 

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