▽続くトラブル―徴収ミスや病院混乱 対応後追い不信感募る
安芸高田市の女性(83)に市役所から一通の封書が届いた。後期高齢者医療制度(長寿医療制度)で、保険料の年金天引きが始まる十一日前である。
「四月十五日に二カ月分の保険料六千七百円を年金から誤って天引きしてしまいます。すぐ返金します」
謝罪文だった。一方で知りたい内容はない。「私の年金はいつから、どれだけ天引きされるのか」。女性は何度も首をひねった。
旧制度では、長男(57)と同居する女性は、扶養家族として保険料を払う必要がなかった。これが新制度では扶養から外され、新たに保険料が生じる。
国は、負担増の激変緩和措置として二年間保険料を軽減し、天引き開始も四月から半年後の十月に先送りした。女性の場合、天引き額の通知は九月ごろになる。
「準備短すぎた」
同市のミスは緩和措置を電算処理していなかったために起きた。事前に気付いたが修正が間に合わず、一時的に九百五十二人から総額約五百六十万円を誤徴収した。「言い訳になるが準備期間が短すぎた」。久保ヒトミ保健医療課長はこぼす。
国が、天引き開始の一部先送りを決めたのは昨年十月下旬。厚生労働省と、高齢者の反発を避けたい与党との「綱引き」の末だった。同市が作業を本格化させたのは十二月で、予定より三カ月遅れた。
トラブルは他の自治体でも表面化する。誤徴収は中国地方で尾道市や瀬戸内市など九市町村に。厚労省高齢者医療企画室は「相次ぐ発覚で全国状況は把握しきれない」という。
保険証気付かぬ
医療機関も混乱している。広島市中区の広島赤十字・原爆病院では今月上旬、新保険証を持たない高齢者が一日約二十人に上った。広島県内の自治体は新保険証を配達記録で郵送したが、気付かない高齢者も相次いだ。
「うっかり捨ててしまった患者さんもいた」と同病院の西田節子医事管理課長。受け付け三十分前の午前七時から職員が患者の保険証を調べ、不携帯でも制度を運営する県広域連合に資格確認し、一割負担で対応した。
県西部の総合病院は、制度初日の一日から保険証を持たない患者に医療費全額を請求した。だが、支払いに困る患者が後を絶たず、三日には後日精算にした。混乱回避のため厚労省が一割負担を通知したのは十日。職員は「遅い。現場を知らない」と苦り切る。
新制度の保険料は、所得や家族構成などが影響し、旧制度との増減は個人差がある。政府は「低所得層は負担が減るケースが多い」と説明するが、絶えないトラブルに高齢者は不信感を募らせる。
天引き開始の十五日。広島市中区の総合病院を訪れた女性(78)が言った。「制度が難しく、間違った保険料でも気付かない。計算の根拠を一人ずつ教えてほしい」。国や自治体に求めたのは「優しさ」だった。(石川昌義)
|