再診料問題で画竜点睛欠く08年度改定

【特集・第7回】2008年度診療報酬改定(7)
対馬忠明さん(健康保険組合連合会専務理事)

 2008年度診療報酬改定では、最大の焦点になった診療所の再診料引き下げが見送られた。同時に、社会保障費を圧縮するため、健保組合と共済組合が08年度に限って政府管掌健康保険(政管健保)の国庫負担を肩代わりする措置も決まり、約1,500の健保組合が加入する健保連にとっては厳しい内容となった。中央社会保険医療協議会(中医協)の議論に支払側委員として参加する対馬忠明さん(健保連専務理事)に、今回の改定の受け止め方を聞いた。(兼松昭夫)

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■急性期病院の勤務医に“財源付きのエール”を
―08年度診療報酬改定をどのように受け止めていますか。
 われわれは今回の改定をめぐる議論で、「診療報酬を引き上げる環境にはない」と言い続けてきましたが、最終的には本体部分の改定率引き上げ(0.38%)で決着しました。その上、予算の概算要求基準(シーリング)の段階で厚生労働省が求められた社会保障費の自然増のうち2,200億円の削減目標を達成するため、健保組合や共済組合から政管健保への支援措置が取られました。われわれとしては複雑な思いです。

―「診療報酬を引き上げる環境にはない」と主張する一方で、中医協の議論の中で、勤務医対策に充てる財源確保の必要性を訴えていらっしゃいました。
 医療界の財政状況には濃淡があります。そのため、限られた財源を必要な部分に重点配分する必要があるというのがわれわれの主張です。医療現場と一口に言っても、例えば病院と診療所があり、同じ病院でも急性期医療をメーンに扱う施設と、慢性期をメーンに扱う施設では状況が違います。診療科目では産科、小児科、救急などの分野が特に厳しいとされています。診療所が献身的な努力で地域医療を支えていることは理解できます。ただ、開業医の方が病院の勤務医よりも経済的に恵まれていることは確かです。実際、勤務医を辞めて処遇面で有利な開業医になる動きが全国で起こっているのに、逆の流れはほとんどありません。そのため、今回の改定では開業医の皆さんに我慢していただき、急性期病院の勤務医に“財源付きのエール”を送ってほしいとアピールしたのです。

―勤務医対策の財源確保をめぐって焦点になった診療所の再診料引き下げは、最終的に見送られました。
 今回の改定では、勤務医の負担を軽減するための費用として、医科部分の改定率引き上げで1,000億円強をまず確保し、これに診療所から移転する財源400億円強を上乗せして、合わせて1,500億円を負担軽減策に充てることが決まりました。財源を回すことにご協力いただいた開業医の皆さんには感謝すべきです。ただ、今回は病院の勤務医対策が大きな課題だったのですから、単に財源を捻出(ねんしゅつ)するだけでなく、この点をアピールするための分かりやすいメッセージが必要だったんです。再診料は、病院の57点(4月から60点)に対して診療所が71点と、似通った診療行為をしていても診療所の点数が高い仕組みです。勤務医対策を強調しながら、開業した方が有利な形を残したのは問題でしょう。

■政管健保の肩代わりは本当に厳しかった
―再診料の引き下げがなければ、関係者へのアピールとして十分ではなかった。
 そうです。中医協の公益委員は診療所の再診料の据え置きを最終的に決めた際、「軽微な処置が基本診療料に包括されるので、実質的に再診料2点下げに相当する」と説明していました。確かにその通りですが、これでは勤務医対策であることが分かりにくい。少なくとも一般国民や患者、関係者への明快なメッセージと言うには程遠いものです。百歩譲って、診療所からの財源捻出分が400億円強で本当に限界だったにしても、「外来管理加算」などの見直しではなく、再診料引き下げで対応すべきでした。

―1月30日の中医協総会では、土田武史会長(当時)が再診料据え置きの裁定を読み上げました。この時の心境はいかがでしたか。
 「非常に厳しい状況」とは聞いていましたが、やはり残念でした。今回の改定は、中医協の事務局が関係学会から意見を聴くなど、非常に丁寧な改定だったと思っています。しかし、「目玉」がない。今回の改定は病院の勤務医対策に主眼を置いていたのですから、それに向けた診療所の再診料引き下げが実現できなかった点で画竜点睛(がりょうてんせい)を欠いたと感じています。

―今回の改定では、中医協の議論と並行して政管健保国庫負担の肩代わり問題が話し合われました。最初に健保連にこうした方向が伝えられたのはいつごろでしたか。
 そろそろお盆休みに入るという時期に、新聞報道で初めて知りました。そのためわたしも休みを切り上げたんです。

―正式な申し入れが健保連にあったのは、大臣(舛添要一厚生労働相)要請の時が初めてだったのでしょうか。
 そうです。大臣から要請があったのは昨年12月12日でした。今回の措置は、われわれが反対を貫いてきた保険の一元化や保険者間の財政調整の問題にもかかわるものですが、この時の大臣のお話では、今回はこれらと切り離した“保険者間の助け合い”の観点から、健保組合で750億円、共済組合で250億円を支援してほしいということでした。最終的には、▽支援措置は08年度限りとする▽前期高齢者に対する公費投入について早急に議論する―の2点を条件に、苦渋の選択として要請を受けたわけです。12日はいったん要請を持ち帰り、14日の理事会で健保組合の皆さんにご説明しましたが、「情報がない中で話だけがどんどん進んだ。納得できない」と、おしかりを受けました。本当に厳しかった。

■支援継続の要請には「断固反対」
―厳しい選択だったという声は、診療側からも上がっています。
 確かに、診療所の財源が削られて勤務医対策に回った点では苦渋の選択を迫られたでしょう。しかし一方で、診療報酬本体の8年ぶりのプラス改定を勝ち取った上に、再診料引き下げも阻止しました。これに対して、われわれは政管健保への支援金の拠出を求められた上、せめて主張を聞いてほしいと考えていた再診料引き下げも見送られました。傷は深いです。

―国は09年度以降も引き続き支援を要請するという報道もあります。
 仮に支援の継続を求められたとしても、「断固拒否」以外はあり得ません。今回の措置は08年度限りということで、何とか機関決定にまでたどり着けたわけですから。大臣も「定常的に行われるべきではない」と明確におっしゃっています。そもそもこの議論は、社会保障費の削減が発端ですが、削減はもう限界でしょう。例えば道路の特定財源を一般財源化するだけで、かなりの財源が確保できるのではないか。日本はこれから“土建国家”でいくのか、“保健国家”でいくのか―。国民がどちらを選択するかでしょう。


更新:2008/04/18 19:44     キャリアブレイン

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08/01/25配信

高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子

医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。