2008年04月18日 週刊ダイヤモンド編集部
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寺脇研氏語る「それでも、ゆとり教育こそ最適なのだ」
ゆとり教育を推進してきた元文部科学省審議官は、今日の揺り戻しに疑問を発する。まだ成長を望むのか、いつまで競争志向なのか、知的欲求を育む教育こそ、共存共栄を志向する成熟社会に最適なのではないか、と。(聞き手:『週刊ダイヤモンド』副編集長 大坪亮)
てらわき・けん●元文部科学省大臣官房審議官 東京大学法学部卒業後、文部省入省。「ゆとり教育」の推進役を務める。文化庁文化部長などを歴任、2006年退職。現在、京都造形芸術大学教授、映画評論家。(写真:加藤昌人) |
――2006年のPISA調査で、日本の子どもの学力順位が2003年から急激に下がった。「ゆとり教育」の弊害ではないか。
それは数字のトリック。03年の調査参加国は41ヵ国で、06年は57ヵ国。16ヵ国も増えたのだから、順位が下がるのは当然。「順位は低下傾向にある横ばい」と見るのが正しい判断だ。
また、PISAが測っているのは、ゆとり教育が推進した「考える力」だから、現状の教育をきちんと続けていけば直に成果は出る。即効性のある分野の話ではない。
ただし、OECD諸国は皆同じように必死になってこの分野の教育に力を入れているので、順位アップは保証の限りではない。フィンランドが1位である理由は、こうした教育にいち早く注力したからだ。
でも、何位だろうが、絶対評価で見て日本の子どもたちの「考える力」が向上するなら、それでいいではないか。
――順位が出る国際調査に世の中は敏感だ。「日本の国力は衰退していないか。未来を託す子どもの学力低下は心配」という人は多い。
驚くばかりだ。いまだに日本経済は右肩上がりで成長しなければいけないとか、世界第2位の経済大国を維持したいなどと考えている人がこんなにも多いのか、と。
昔から全然変わっていない。戦前も英米と肩を並べるまで急成長していき、途中で無理が顕在化したにもかかわらず、止められなくて破滅した。同様の錯覚による失敗をバブル経済で繰り返した。そろそろ、成熟社会への脱皮に向けて目覚めてもいい頃だ。
ゆとり教育を批判する人びととは、国のあり方についての基本的な考え方からして合わない。だから、教育議論もかみ合わない。
――どういうことか。
そもそもゆとり教育の考え方は、1980年代の土光敏夫氏の臨時行政調整会に端を発する。「成熟社会へ移行しよう。世界と競争する社会から共存共助する社会へ移ろう」と考え、政治経済体制を改革した。それを引き継いだ中曽根内閣で臨時教育審議会を設け、教育改革に着手し、ゆとり教育として結実した。
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