それでは、ゾルゲらが生きた時代とは一体どのような時代だったのか。 以下に当時の世界情勢とゾルゲ諜報団の動きをまとめてあるのでご覧頂きたい。 ゾルゲ、尾崎らの生まれた時代は、まさに混沌とした戦争の時代であった。 この背景を理解することで、諜報活動へと身を投じていった彼らに 時代がどのような影響を与えてきたのかを感じ取っていただきたいと思う。

日清戦争
		ゾルゲ､アゼルバイジャンのバクーに生まれる （3年後、ベルリン移住）
		尾崎秀実､東京芝に生まれる 父の赴任先である台湾へ（〜18歳まで）
日露戦争（〜05年）
南満州鉄道株式会社（満鉄）設立
サラエボ事件／ 第一次世界大戦勃発（〜18年）		ゾルゲ､ドイツ志願兵として第一次世界大戦に従軍
ロシア革命（11月7日）
シベリア出兵（〜22年）
パリ講和会議		ゾルゲ､ドイツ共産党入党 尾崎､東京第一高等学校入学
国際連盟発足 日本初のメーデー
日本共産党結成		尾崎､東京帝大（今の東京大学）法学部入学
関東大震災
日ソ基本条約締結		ゾルゲ､ソビエト共産党に入党。国際スパイ活動開始
		尾崎､朝日新聞社入社
張作霖爆破事件		尾崎上海赴任
世界恐慌		クラウゼン上海へ／尾崎､アグネス･スメドレーと出会う
世界恐慌、日本へ波及 （昭和恐慌）		ゾルゲ､上海で諜報活動を開始 ゾルゲ､スメドレーの紹介で尾崎秀実と出会う
満州事変
満州国建国宣言 五・一五事件		尾崎､大阪へ転勤 ゾルゲ､モスクワに戻る
ヒトラー、ドイツ首相に就任 日本、国際連盟脱退表明		ヴェケリッチ来日（2月） ゾルゲ来日（9月） 宮城与徳帰国（10月）
ヒトラー、総統となる		尾崎､ゾルゲと再会（5月） ゾルゲ､オイゲン・オットの満鉄視察に同行 　五・一五事件報告
		ゾルゲ､モスクワへ（7月） クラウゼン来日（11月） 　北鉄譲渡交渉報告 　永田軍務局長惨殺事件報告
二・二六事件		ゾルゲ､二・二六事件の報告書をドイツ大使館に提出 オット、ゾルゲを日独軍事同盟の協議に参加依頼 　北支民衆の動向を報告 　相沢中佐事件を報告 　二・二六事件を報告 　日独防共協定を報告
第一次近衛内閣成立 蘆溝橋事件⇒日中戦争 南京大虐殺事件		尾崎､朝飯会（首相のブレーン）発起人となる 　近衛内閣の性格とその成立事情を調査 　蘆溝橋事件を報告 　大本営設置事情を報告
ドイツ、オーストリアを併合 国家総動員法発令		オット、ドイツ駐日大使となる 尾崎､朝日新聞を退社。近衛内閣嘱託となる 　宇垣外相について報告 　張鼓峯事件について報告 　王兆銘工作について調査
ノモンハン事件 独ソ不可侵条約締結 第二次世界大戦勃発（9月）		尾崎内閣嘱託辞任、満鉄嘱託となる ゾルゲ､ドイツ大使館の私設顧問となる 特高、伊藤律（満鉄における尾崎の助手）を逮捕 　平沼内閣の成立事情を調査 　ノモンハン事件を報告 　日英会議を調査報告 　日独伊軍事同盟をめぐる問題について調査
日独伊三国同盟締結 大政翼賛会結成		米内内閣成立を報告 　第二次近衛内閣成立について報告 　日独伊経済協定問題について調査報告
日ソ中立条約成立 東条英機内閣成立 ハワイ真珠湾攻撃､太平洋戦争勃発		尾崎満州旅行（8月） ゾルゲ諜報団一斉検挙（10月） 　独軍によるソ連進攻の報告 　日本の戦争遂行能力の調査報告 　日本の南進政策の報告
東京大空襲 ミッドウェー沖海戦		司法省がゾルゲ事件発表
学徒動員		ゾルゲ事件公判 宮城獄死（8月）
ビルマ方面軍､インパール作戦開始 連合軍ノルマンディー上陸作戦 レイテ沖海戦、神風特攻隊出撃		上告棄却 ゾルゲ､尾崎死刑執行（11月7日）
終戦（8月）		ヴェケリッチ獄死（1月） 政治犯釈放（10月）

ここで、ゾルゲと尾崎の『戦争回避と平和への願い』の原点となった出来事について。 年表をご覧頂いても判るように、ゾルゲは実は19歳で「ドイツ志願兵」として第一次世界大戦に従軍している。ここで戦争の悲惨さを実体験した上、自らも足を負傷。この従軍体験によって、戦争を強く憎む気持ちが彼の中に生まれたと言われている。また、尾崎は父と共に幼少時を台湾で過ごしているが、その頃父が使用人の中国人に対してあからさまに傍若無人な振る舞いを示すのを目撃してしまったことから、戦争や人種差別といった祖国日本のあり方に疑問を抱きはじめた事がきっかけだという。ゾルゲと尾崎、本来は敵国である二人が、「戦争のない社会（彼らがそこで理想とした社会は【一国共産主義】であったが）」という同じ目的意識を持って行動を共にしたのは、平和を求める心が二人の心にあったからこそなのか…。 攻撃用軍事力を持たない現代の日本人にとって、戦争とはどこか「遠い国の出来事」または「遠い過去の出来事」にしか感じられなくなっているかもしれない。しかし、彼らが生きた時代は、生まれてから巣鴨プリズンで死刑執行になるまでの間、常に戦争のただ中に生きるしかなかった。もし我々がそんな時代に生まれていたらどう感じていただろう…。 戦時中という激動の時代を、ゾルゲや尾崎らの目を通してスクリーンで体験していただいた後、再度上の年表に目を通してみるのをお勧めしよう。その時にはきっと、さらに多くの「事実」と「時代」が見えてくるはずである。

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