世界各地で食糧価格が高騰、見直される「ジャガイモ」の魅力
[リマ 15日 ロイター] 世界各地で小麦やコメの価格が高騰するなか、比較的安価に栽培することもでき、栄養価の高いジャガイモの魅力が見直され始めている。
ペルーを原産地とするジャガイモは、寒冷なアンデス山脈の荒れ地からアジアの熱帯地域まで、さまざまな環境で栽培されている。また、水分をさほど必要とせず、最短50日ほどで成長し、1ヘクタール当たりの「食糧」収穫量は小麦やコメの2─4倍にもなる。
リマにある国際ジャガイモセンター(CIP)のパメラ・アンダーソン所長は「世界の人々に十分な食糧が行き渡らないという現実に、われわれは向かいつつあるのかもしれない」と指摘。その上で、ジャガイモが食糧供給問題の解決策の1つになるとの見方を示す。
食品の値上がりや肥料・燃料の価格高騰、バイオ燃料に使用される作物への転作、人口の増加などによる食糧危機を救う可能性をジャガイモは秘めている。
国連は2008年を国際ジャガイモ年とし、ジャガイモを「隠れた宝」と呼ぶ。また、政府がジャガイモの利用促進に力を入れ始めた国もあり、ペルーではジャガイモの粉を使ったパン作りを奨励するプログラムが開始された。ジャガイモから作られたパンは、学校や刑務所、軍隊などに供給されている。
<各国の動向とジャガイモの栄養>
約8000年前にペルーのチチカカ湖で栽培されていたのが起源とされるジャガイモだが、ペルー人の消費量はヨーロッパ人に比べて少ない。人口当たりで世界最大の消費国はベラルーシで、1人当たり年間で約170キロのジャガイモを消費する。
インドは、向こう5─10年でジャガイモ生産量を2倍にする研究に着手。コメの一大消費国である中国は、世界最大のジャガイモ生産国でもある。またサハラ以南のアフリカでは、ジャガイモの生産がその他のあらゆる作物を上回るペースで拡大している。
ラトビアでは、1─2月にパンの販売量が価格上昇を受けて10─15%減少した一方、消費者のジャガイモ購入量は20%以上増えた。
ジャガイモ消費量が拡大すれば、その多くを栽培する発展途上国の農家の収入増加にもつながる。前述のアンダーソン氏は「(発展途上国は)ジャガイモを食糧安全保障と収入創出の両面で選択肢の1つと見ている」と語った。
ジャガイモには色や形のほか、大きさや質感など非常に多くの品種があり、調理方法もさまざま。世界中で創作的な料理人の手によって、これまでに数多くのメニューが登場してきた。
丸複合糖質を多く含むジャガイモはエネルギー源としても優れている。CIPによると、ゆでたジャガイモはトウモロコシに比べて多くのタンパク質を含み、カルシウムの量は約2倍だという。またジャガイモにはビタミンCや鉄分、カリウム、亜鉛も含まれている。
<投機マネーに縁薄いジャガイモ>
ジャガイモの価格が高騰していない理由の1つに、小麦などと違って国際的に取引されてないため、投機マネーを引き付けていない点が挙げられる。
小麦は世界全体で毎年6億トン前後が生産されるが、そのうちの約17%が生産国外への輸出に回る。一方、ジャガイモは輸送途中で腐る可能性があるほか、病原菌に感染しやすいため、検疫の問題で輸出入が控えられる側面もある。
専門家の推計では、国際的に取引されるジャガイモは生産量全体の5%未満。そのため価格は国際的な需給ではなく、主に消費される国ごとの事情によって変動する。
これにはマイナス面もある。一部の国では、ジャガイモの価格が農家にとって魅力的ではなく、作付けの動機になりにくいことがある。ペルーのジャガイモ市場では、政府が需要促進にもっと力を入れるべきとの声も聞かれる。
しかし、科学の進歩がこうした「ジャガイモ」を取り巻く環境を変えるかもしれない。
独化学大手BASF(BASF.DE: 株価, 企業情報, レポート)は、遺伝子組み換えによって「葉枯れ病」に強いジャガイモを開発している。この病気は19世紀にアイルランドで飢饉(ききん)をもたらしたものであり、BASFによると、現在でも世界のジャガイモ収穫の約20%を損失させる原因となっている。
研究者らは、病気の危険がない安全な種イモを使用することで、農家の収穫量が30%増える可能性があるとしており、検疫の安全性の観点から輸出にも使えるようになるとみている。
そうなれば、農家にとっての収入増につながるだけでなく、企業は冷凍フライドポテトやポテトチップのみならず、特色を持ったジャガイモを海外に売り込めるかもしれず、生産量の増加がさらに加速していく可能性がある。
(ロイター日本語ニュース 原文:Terry Wade、翻訳:宮井伸明)
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