航空自衛隊のイラク派遣は憲法九条に違反している。名古屋高裁が示した司法判断は、空自の早期撤退を促すもので、さらには自衛隊の海外「派兵」への歯止めとして受け止めることができる。
イラク特措法は、人道復興支援のため「非戦闘地域」での活動を規定している。空自のC130輸送機は、武装した米兵らをバグダッドなどに空輸している。ところが、バグダッドは戦闘地域、すなわち戦場である。
戦場に兵士を送るのは軍事上の後方支援となる。これは非戦闘地域に活動を限定したイラク特措法から逸脱し、武力行使を禁じた憲法九条に違反するとした。
イラク戦争開戦から五年余。大量破壊兵器の保有、国際テロの支援を理由に米英両国は攻撃に踏み切った。「事前に悪をたたく」という米ブッシュ政権の先制攻撃論が理論的支柱となった。
いずれも見込み違いの「大義なき開戦」だったことは明らかだ。この五年は、イラク人にとり苦難と混乱の日々であった。世界保健機関(WHO)によると、十五万人以上のイラク人が死亡した。
米兵死者が四千人を超す米国も、厭戦(えんせん)気分が満ちている。秋の大統領選ではイラク問題が最大争点となりそうだ。
では、小泉政権の「開戦支持」は正しかったか。この支持の延長に自衛隊の派遣があった。イラク南部サマワに派遣された陸上自衛隊は、インフラ整備など復興支援の活動を展開したが、空自は情報開示に乏しく、活動実態は伝わっていない。
高裁が違憲とした以上、空自の輸送活動をこのまま継続することは難しく、撤退も視野に入れた検討が必要ではないか。福田政権にとっては、道路財源や高齢者医療の内政問題に加え、日米同盟にかかわる安全保障上の外交課題を背負うことになった。
もう一つ、今回の違憲判決が明確にしたのは、自衛隊海外派遣と憲法九条の関係である。与党の中には、自衛隊の海外派遣を恒久法化しようという動きがある。しかし、九条が派遣でなく「派兵」への歯止めとなることを憲法判断は教えた。
イラク派遣に限らず、司法は自衛隊に関する憲法判断を避けてきた。今回の踏み込んだ判決を受け止め、平和憲法の重さとともに、世界の中にある日本の役割を考える機会としたい。
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