「委員会と府省の間には、地球と火星くらいの隔たりがある」(増田寛也総務相)--。こんな嘆きが聞こえる中での調整である。
政府の地方分権改革推進委員会が国から自治体への権限移譲を要望する第1次勧告の取りまとめ作業を本格化した。これまでは中央官庁の抵抗が目立ち、丹羽宇一郎委員長が「頭にきている」と批判する事態だ。福田内閣が官僚に足元を見られている表れではないか。同委はひるまず勧告に踏み切り、福田康夫首相に実現を迫るべきである。
国と地方の役割分担を見直すため、分権委は昨年11月に中間報告を首相に提出した。国道、1級河川の管理や農地転用など国所管の38項目について自治体への権限移譲を要求した。国が地方の行政を法令で縛る「義務付け・枠付け」も基準に達しない場合、原則廃止を掲げている。
中間報告を土台に同委は5月末にも行う1次勧告に向け各府省と協議したが、多くが「ゼロ回答」のままだ。必要な資料の出し渋りも目立つ。このため17日から局長級に議論を格上げし、近く増田総務相が閣僚折衝に乗り出す。さきの公務員制度改革で首相は官僚と衝突を避けた。今回も逃げ切りは可能、と府省は高をくくっているのだろう。
だからこそ、分権委は妥協してはならない。今回、議論されているのは95年の分権改革の際、積み残された課題ばかりだ。たとえば、国が管理する国道の範囲の見直しを国土交通省が迫られる中、首相は09年度からの道路特定財源の一般財源化を表明した。次々と発覚した特定財源の無駄遣いを考えた場合、都道府県に権限と必要な財源、人員を委ねた方が、地域の実情に応じた効率的運営ができるのではないか。
分権委は年末に、国の地方出先機関の統廃合に関する2次勧告を予定する。その際は国交省の地方整備局、農水省の地方農政局などが見直し対象になるとみられ、行政の領域を決める1次勧告はその結論に影響する。それだけに抵抗が強いわけだ。府省の同意にこだわるあまり、勧告の水準を下げてはならない。
加えて大切なのは、住民に身近な行政を受け持つ市町村への分権だ。厚生労働省所管の保育所の「遊戯室の面積」(1人1・98平方メートル以上)など、国の細かな規制の廃止を議論しているが、福祉施設に関する権限は市町村に委ねた方が、分権効果を期待できる。教育行政など都道府県から市町村への地方間分権も勧告の核心である。
首相は15日、やっと閣僚に協力を求めた。とはいえ、地方分権を政権のメーンテーマとして位置づけてこなかった出遅れ感は否めない。それだけに、分権委はなぜ改革が必要かを国民にわかりやすく説明し、世論を喚起する努力も不可欠である。
毎日新聞 2008年4月18日 東京朝刊