◎能登の大気汚染 胡錦濤主席に対策要請を
輪島市の大気中から通常の十倍もの発がん物質が検出された問題は、中国国内の深刻な
大気汚染が、北陸にまで直接的な影響を及ぼしている現実を物語る。
中国の大気汚染と言うと、黄砂に含まれた窒素酸化物や硫黄酸化物による健康被害が思
い浮かぶが、今回確認された発がん物質の飛来時期は十月から四月にかけてで、中国東北部の石炭暖房が主因という。今後、中国人の生活水準が上昇していくなかで、汚染対策が間に合わない事態が続けば、発がん物質の濃度はますます高くなる可能性があり、日本は四季を通じて、そのとばっちりを受けることになりかねない。
福田康夫首相は、五月六日に来日する胡錦濤国家主席と首脳会談を行い、東シナ海のガ
ス田開発問題や中国製ギョーザ中毒事件などについても意見交換する。それらの議題の一つに、温暖化問題と絡めて中国国内の環境問題を取り上げ、対策を要請してほしい。中国にとって耳の痛い話であっても、できれば福田首相の口から直接、具体的事実を指摘し、改善に向けての言質を取ることが重要だ。
輪島で検出された高濃度の発がん物質は、多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれ、石
油や石炭に多く含まれる。中国は冬場の暖房エネルギーを主に石炭に頼っているが、中国産の石炭は硫黄含有量が多く、燃焼効率が低い。
金大大学院自然科学研究科の早川和一教授の解析によると、秋から春にかけて、中国東
北地方から輪島方面に空気の塊が流れ込んでくる。実際に、輪島市の大気中のPAHは、金沢のPAHよりも、中国・瀋陽のPAHに類似した組成をしているという。
煤煙を大量にはき出す暖房用石炭ボイラーを、質の高いものに切り替えたり、昔ながら
の練炭使用をやめさせるなどの対策は、中国政府が本腰を入れて取り組まないと前進しない。大気のみならず、水質汚染や海洋ごみの不法投棄などについても同様である。「外圧」がそう簡単に通じる国ではないとはいえ、日本は韓国などと連携して環境汚染対策を講じるよう、繰り返し声を大にして要求していく必要がある。
◎イラク派遣訴訟 「違憲」判断には違和感
イラクでの航空自衛隊の空輸活動に憲法違反が含まれると結論づけた名古屋高裁判決に
は違和感を抱かざるを得ない。イラク派遣差し止めや慰謝料請求など原告の訴えを退け、控訴を棄却しながら、あえて憲法判断に踏み込む必要があったのかどうか。これまで同様の訴訟で憲法判断を回避する流れが続いていたことを考えれば唐突な印象も受ける。
原告は上告しない方針であり、国側も形としては勝訴のため上告できず、上級審が判断
する道は閉ざされることになる。極めて高度な政治判断を要する事柄について初めて憲法違反を認定し、それが最終判断となってしまうのも腑に落ちないことである。
判決はイラク特措法の政府解釈を踏襲した上で「イラク、特にバグダッドは戦闘地域に
該当し、空自による多国籍軍武装兵員のバグダッドへの空輸は他国の武力行使と一体化した行動」と認定し、政府とは反対の結論を導き出した。
イラク特措法はイラクでの自衛隊の活動を「非戦闘地域」と規定し、戦闘について「国
または国に準ずる者による組織的、計画的な攻撃」と定義する。現在のイラクは米軍中心の多国籍軍に支えられるイラク政府の治安部隊と、イスラム教シーア派の反米指導者サドル師派の民兵組織などが衝突を繰り返し、自爆テロも絶えないが、サドル師派の武装勢力などの攻撃を受ける状況が特措法で定義する「戦闘」であるかどうかは判断が分かれるところである。
バグダッドの治安は悪いが、空自機が乗り入れるバグダッド空港は民間機も離発着し、
政府は「非戦闘地域」と認定している。バグダッドへの輸送活動は、憲法と特措法上のいわば「グレーゾーン」にあって、それを実行するかどうかは最高度の政治判断にゆだねるほかない性格のものといえる。
判決は、イラク派遣差し止め請求について「派遣は防衛相に与えられた行政上の権限で
、民事上請求権がない」と退けた。イラク派遣は政治の決定において実施されており、今回の司法判断をもってイラクでの活動がすべて違憲のごとく叫ぶのは的はずれだろう。