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2008年4月18日

 先日の「夢二の絵と秋声の手紙、秋田で同時に見つかる」の記事は近年の文芸ニュースとして出色のものだった

大正期の売れっ子画家・竹久夢二と同せいして別れた直後に、今度は金沢出身の人気作家、徳田秋声のもとに走った女流作家の話である。夢二と秋声の名に目を奪われがちだが、二人をつなぐ女性の大胆さに注目しなければニュースの意味はない

女性は秋田出身の作家・山田順子(一九〇一―六一)といい、弁護士の夫の元を飛び出し、当時の新聞に「和製ノラ夫人」と騒がれた。イプセンの名作「人形の家」の主人公ノラをもじったのは言うまでもない

が、その奔放さはノラどころではなく、昨今の不倫妻もぶっ飛ぶ。女性遍歴で知られる作家二人が脇に回っているのが何ともおかしい。ごく少数とはいえ、そうした女性を生んだ明治の不思議さと、活躍した大正、昭和の時代相にあらためて感じ入るのである

公序良俗に反する恋愛を称賛するのではない。男性中心の世相史ではうかがい知れないもう一つの世界があったことを「先達」に教えられ、歴史を複眼で見る大切さを思うのである。


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