記者日記

　先日、見知らぬ弁護士から電話を受けた。「私は、あなたが以前取材した男性の遺族から依頼を受けて、訴訟を準備している。参考にするから、記事にあった訴訟の担当弁護士を教えて」と。交通事故を巡る民事訴訟判決を紹介した記事に関する問い合わせだった。

　弁護士の居丈高な口調にカチンときた。「その言い方は何ですか」と言い返しながら、１年以上前に会った男性のことを思い出した。その男性は追突事故に遭い、長い間ひどい頭痛に苦しんでいた。検察が加害者の責任について再捜査してくれたといい、その経緯を説明してくれた。「もうすぐ会社に復帰できそう」と、笑顔さえ見せていた。それが電話の弁護士によれば、昨年、自殺したのだという。

　男性の妻子は、事故の加害者を相手取り訴訟を起こすらしい。裁判は何年も続く。どこででも起きそうな事故がもたらした悲劇の大きさに、言葉を失った。【渡辺暖】