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1.崖地 |
不動産鑑定評価基準、公共用地の取得に伴う損失補償基準等において、「崖地」に関して明確に定義されていない。
法令上では、宅地造成等規制法施行令1条2項で、「がけ」とは地表面が水平面に対し30度をこえる角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く)以外のものをいい、「がけ面」とはその地表面をいうと定義されている。
また、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律2条1項で「急傾斜地」とは傾斜度が30度以上の土地と定義されている。
しかし、これらの法令は、いずれも崖崩れ等の災害防止を目的としているもので、傾斜度30度とは防止策を講じない場合に崖崩れ等の危険が生ずる可能性のある一定の基準を定めたにすぎず、土地評価上の観点においては、崖崩れの危険性を有しない傾斜地(30度未満の傾斜地)であっても、平坦地に比較して有効利用度が劣るのが通常であるので、前記法令にいう傾斜度30度以上の傾斜地のみを「崖地」と定義することは妥当でない。
土地評価においては、傾斜地であるがゆえに有効利用が阻害されることによる価値減を把握することが目的であるので、以下、平坦地に対して有効利用が阻害される傾斜地、法地等を総称して、ここでは「崖地」と定義することにする。 |
2-1.崖地の格差率-土地価格比準表 |
「土地価格比準表」は、住宅地域の個別的要因比準表「画地条件」「崖地等」において、崖地等で通常の用途に供することができないものと認められる部分を有する画地の場合は、別表第30に基づき適正に定めた率をもって補正するものとし、別表第30では、崖地を利用不可能な崖地と利用可能な崖地とに分けてそれぞれ格差率を求めるようにしている。
別表第30では、利用不可能な崖地について、崖上を呈し、庭としての利用はほとんど不可能であり、かつ、人工地盤により宅地利用も可能であるが、通常の住宅建築は不可能なものと定義している。
別表第30に掲げる利用不可能な崖地の格差率は次の通りである。 |
崖地格差率表(利用不可能な崖地) |
1.崖地部分と平坦宅地部分との関係位置・方位 |
2.崖地の傾斜の状況 |
傾斜方位 |
格差率 |
60〜70 |
南 |
50〜80 |
東 |
40〜60 |
西 |
30〜50 |
北 |
10〜20 |
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上記格差率表では、崖地が敷地のどちら側の方位にあるかによって格差率に差異を設けている。
南側に崖地がある場合に最も価値率が高いのは、住宅地にとっては、日照の確保、採光、眺望等がその土地の価格形成において重要な要素となるが、南側に崖地がある場合、南側の敷地に住宅が建築されても、これらにあまり影響を与えないためであるものと考えられる。この意味で、南・東・西・北の順に価値が低下するように格差率が設定されているのは理にかなったものである。
また、それぞれの傾斜方位について格差率に差異を設けているのは、崖地を含む土地が存する住宅地域の性格によって最有効使用建物が異なるので、その階層、規模等により平坦宅地部分に与える影響が一律ではないためであるものと考えられる。
一方、崖地の傾斜の状況によって格差率に差異を設けているのは、次のような理由によるものと考えられる。
前述の通り、上記格差率表は、庭としての利用がほとんど不可能であり、かつ、人工地盤により宅地利用が可能であるが、通常の住宅建築は不可能なものを取り上げている。仮に、崖地部分まで地盤を張り出してこれを庭として利用することを考えた場合、その分だけ平坦地が増加したことになり、利用価値は増進する。この場合においては、人工地盤部分を含め新たな平坦地とみなされる土地の価額から、人工地盤の築造に要する工事費相当額を控除した価額と崖地を含まない平坦な土地の価額との差額を崖地を含む土地の減価額とみることができる。
新たに形成される平坦地部分、及びそのために必要な工事費相当額は崖地の傾斜の状況により異なるので、格差率に差異が生ずることになる。 |
2-2.崖地の格差率-農地 |
土地価格比準表別表第30「崖地格差率表」は、前述の通り、崖地の状況に応じて有効利用が阻害される程度を十分に斟酌したもので、崖地の価値の判定にあたり指針となるものと認められる。
従って、評価対象となる土地が農地である場合についても、通常の用途(ここでは耕作の用)に供することができない利用不可能な崖地であれば、当該崖地が農地であることを考慮したうえで、「崖地格差率表」を適正に補正して、これを適用することが可能である。
以下、農地である崖地の格差率について検討する。
(1)崖地部分と平坦地部分との関係位置・方位
農地は、建物の建築を予定していないことから、崖地の傾斜方位によって平坦地部分は影響を受けない。
従って、当該項目については、傾斜方位、最有効使用建物等についての検討を待たず、「崖地格差率表」に掲げるもののうち、最も高い価値率80%を採用することが妥当である。
(2)崖地の傾斜の状況
既に、検討した通り、当該項目について格差率に差異が設けられているのは、人工地盤を築造し庭等として利用することを想定した場合に、傾斜の状況により、増加する平坦地部分、必要となる工事費等が異なるためである。
農地は、価格水準が低いので、人工地盤を築造して平坦地部分を増加しても、新たに形成された平坦地を含む土地の価額に対して工事費の占める割合が大きくなることから、減価の程度は当然に大きくなるものと考えられる。
従って、当該項目に基づく価値率については、最も低い60%程度を妥当とすべきである。
(3)農地である崖地の格差率
以上検討した結果に基づき農地である崖地の格差率(価値率)を試算すると、0.80×0.60=0.48となり、概ね50%程度の価値率となる。 |
がけ地等で通常の用途に供することができないと認められる部分を有する宅地の価額は、その宅地のうちに存するがけ地等ががけ地等でないとした場合の価額に、その宅地の総面積に対するがけ地部分等の通常の用途に供することができないと認められる部分の地積の割合に応じて「がけ地補正率表」に定める補正率を乗じて計算した価額によって評価する。 |
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このうち、「がけ地補正率表」は、平成11年適用分から崖地の傾斜方位を考慮したものに改正されたが、これを考慮しない改正前の「がけ地補正率表」を掲げると、以下の通りである。 |
がけ地補正率表 |
がけ地面積
総 面 積 |
0.10以上
0.20未満 |
0.20以上
0.30未満 |
0.30以上
0.40未満 |
0.40以上
0.50未満 |
0.50以上
0.60未満 |
補 正 率 |
0.95 |
0.90 |
0.85 |
0.80 |
0.75 |
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上記「がけ地補正率表」は、崖地面積の総面積に対する割合(崖地割合)が増加するに従って、順次、当該崖地を含む土地の価値が低下していくという考え方に基づくものであり、農地のように、傾斜方位及び傾斜の状況といった崖地の形状よりも崖地面積の大小による影響が大きい土地について有力な指標となる。
ここで、崖地を含む土地について、崖地の価値率を先に試算した50%とみなし、崖地割合に従って各画地の価値率を試算すると、当該試算値は、「がけ地補正率表」に定める補正率より細分化されるものの、概ね当該補正率表と均衡した結果が得られる。
すなわち、改正前の相続税財産評価基準は、崖地部分の価値率を50%程度とみなしつつ、課税上の評価である点を考慮し、崖地割合10%刻みで補正率を調整し、上表のとおり規定したものと認められる。
以上の通り、農地のような崖地面積の大小による影響が大きい土地については、崖地の価値率を50%程度と査定することが妥当である旨検証された。 |