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NIKKEI NET

社説1 英ファンド拒否に議論は尽くされたか(4/17)

 英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)がJパワー(電源開発)株を20%まで買い増すことを求めている問題で、政府は16日、外為法に基づく投資の中止を勧告した。

 電力の安定供給を損ないかねないという理由だが、議論が尽くされたかどうか疑問が残る。

 株買い増しに待ったをかける理由として、政府は電力インフラの整備に支障の出る恐れをあげる。関税・外国為替等審議会の吉野直行部会長は特に原子力発電に言及し、「原子力は20―25年の長期で考える必要がある」と指摘した。

 通常3―5年の短期の時間軸で利益回収をめざすファンド主導の経営と、息の長いインフラ投資は両立しにくいという見解である。

 この説明は一定の説得力があるが、一方で株式買い増し拒否という強硬手段に訴える前に、他に有効な手だてがなかったのか、という疑問もわく。自由経済の建前からしても、政府による民間経済への介入はできるだけ少ないことが望ましい。

 TCIは譲歩案を示し、原発や送電網といった基幹インフラの整備については、自らの議決権を凍結するなどして、安定的な投資を阻害しないと表明している。

 これに対し「案の提示時期が遅い」「実効性が疑問」など批判もあるが、政府もより真剣にTCI案を吟味しても良かったのではないか。

 仏ルノーが1999年に日産自動車に出資する際に、日産の宇宙航空事業が外資の傘下に入ることに、安全保障上の懸念が生じた。このときの政府の対応は柔軟で、同事業の機密保持などを条件にルノーの出資を認め、日産の復活が実現した。

 外からの投資を拒絶するためでなく、受け入れるためにどんな工夫ができるのか。政府はそこに知恵を絞るべきである。

 そうでなくても、海外の投資家は日本の閉鎖性に懸念を抱いている。外資が入ってきてから後出しジャンケン的に導入を図った空港の外資規制案のほか、企業同士の株式持ち合いも復活している。

 日本全体が内向き姿勢を強めれば、新たな資本や人材、アイデアの流入が止まり、私たち自身にそのツケが回ってくる。

 Jパワー問題は外為法を使って投資の中止を勧告する初のケースで、今後の先例ともなる。「異質な株主を排除した」と否定的に受け取られるのではなく、規制発動の必然性を世界に納得してもらえるか、政府の外向けの説明能力が試される。

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