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2008年04月17日(木曜日)付

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Jパワー株規制―これで公益が守れるか

 外資による日本企業への投資計画に政府が初めて「待った」をかけた。電力卸会社Jパワー株9.9%を持つ英投資ファンドTCIが20%まで買い増す計画に対し、中止を勧告した。

 外国為替法で「国の安全」や「公の秩序」にかかわると指定した企業の株の10%以上を外国投資家が買うとき、政府は計画の変更・中止を勧告・命令できることになっている。

 TCIはこれまで海外で、投資先企業から大幅な利益獲得をめざし経営に注文をつけてきた。剛腕の「もの言う株主」といっていいだろう。3年前、他の株主の支持も集めて、ドイツ取引所によるロンドン証券取引所の買収計画をやめさせた実績がある。

 政府は今回、Jパワーが大間原子力発電所の建設を計画している点を重視した。大間はプルトニウム混合燃料を燃やす初の原子炉だ。核燃料サイクル政策の要だとして、「こうした長期事業はTCIから見直しを迫られかねない」と懸念しているのだ。

 たしかに電力は公益事業であり、長期的な経営が必要だ。だが、それを外資規制で守れるとは言えない。

 もし相手が国内ファンドなら歯止め策にはならないからだ。ここで株買い増しを止めても、TCIが他の株主の支持を得れば、株主総会で議案を通すこともできる。最低限の公益を守るには、電気事業法などで内外無差別のルールを整備する必要がある。

 Jパワーは国策会社を民営化し04年に上場した。上場すれば株主は選べないし、上場時には海外からの投資を呼びかけもした。今になってルールの不備が明らかになるとは、民営化計画に欠陥があったことに他ならない。

 守るべき「公益」が何かも検討すべきだ。大間を含む政府の核燃料サイクル政策が妥当か、議論が残っている。見直しの余地はないのか。経済産業省に天下り先を守ろうという下心はないのか。そういう疑問にも政府はきちんと答えなければならない。

 さらに、もっと大きな「公益」がある。日本を海外へ開かれた国にしていく、という目標である。人口減少時代に突入した日本にとって、外国の優秀な技術や人材、経営を呼び込んでくることは、経済を活気づけるのに欠かせない。それなしに、今後の高齢化社会は乗り切れないだろう。

 今回の決定は「日本は資本鎖国だ」という海外でのイメージを増幅するに違いない。その損失の大きさと、外資規制の効果を十分に比較検討したうえで発動したのか、大いに疑問だ。外資を恐れ嫌っていては、長い意味で国益を損なうことになりかねない。

 外資規制を発動するなら、同時に、外資へいっそう広く門戸を開いていくというメッセージを強く発しなければならない。政府の責任は重大だ。

学校裏サイト―いじめの芽を削除しよう

 「ウザイ」「死ね」。自分を名指しで非難する言葉が突然、携帯電話の画面に出てきたら、どんな気がするだろうか。しかも、だれが書いたのかわからない。

 これが、インターネット上の「学校裏サイト」に現れるいじめである。その実態についての初めての調査結果が文部科学省から公表された。

 裏サイトとは、中学や高校の公式ホームページとは違って、生徒が自分たちで作ったものだ。今回つかんだだけでも、小学校分を含めて3万8千を超える。「2ちゃんねる」のようなネット上の掲示板に、テーマごとに書き込む形式が9割を占める。

 深刻なのは、「キモイ」などと言って特定の個人をやり玉に挙げる記述が、抽出調査で全体の半数から見つかったことだ。「死ね」「殺す」といった暴力的な表現も約3割あった。

 たった一行がのろしとなり、次々と記述が増えていく。匿名のため、加害者がだれかわからない。自分を嫌っているのはだれなのか。もしかしたら、いつもは笑顔で接してくれている友達かもしれない。疑心暗鬼がつのる。

 ネットでのいじめが日常生活でのいじめに移っていく例も少なくない。

 この陰湿な世界から、どうすれば子どもたちを守れるのか。

 携帯電話各社は今年から、未成年者が携帯電話を購入する際には、原則として有害サイトへ接続できないようにした。しかし、「有害」として網にかかるサイトは限られている。

 まずサイトの管理人などが、学校ごとの裏サイトをきちんと監視してもらいたい。特定の子どもを中傷するような記述があれば、削除するとともに、ただちに学校に連絡すべきだ。

 群馬県の中学校では、教師たちが教育委員会から貸与された携帯電話でネット上のパトロールを今年度から始める。こうした動きも広げたい。

 被害にあった生徒がいた場合、学校はどんな対応を取るべきか。その生徒の心のケアをするのはもちろんだが、次のような福岡県の中学校の例が参考になるかもしれない。

 この中学校では、1人の生徒が裏サイトでのいじめにからんで、クラブ活動に姿を見せなくなった。学校は裏サイトのもたらすいじめの残酷さについて特別授業をしたり、父母会で裏サイトの実態を説明したりした。

 自分の子どもがネットでいじめにあっていないか。保護者も目配りをしなければならない時代になった。

 危ないサイトに囲まれた子どもたちである。ネット上でいじめを見つけたら、すぐに学校に知らせよう。面と向かって、いじめを止めるのは勇気がいるかもしれないが、知らせることぐらいはできるんじゃないか。それがいじめの芽を摘むことになる。

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