政府は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と貿易自由化を図る経済連携協定(EPA)に署名した。実際に関税引き下げなどが始まる協定発効は、早ければ今秋になる見通しだ。
EPAは、関税撤廃を柱とする自由貿易協定(FTA)に、投資やサービスの自由化などを加えた経済関係強化のための協定である。日本はこれまでシンガポール、メキシコ、マレーシアなど八カ国とEPA締結を進めてきたが、いずれも二国間の協定にとどまっていた。複数国と同時にEPAを結んだのは今回が初めてである。
日本にとって、総人口五億五千万人を超えるASEANは米国、中国に次ぐ貿易相手だ。ASEAN加盟十カ国という地域全体を一つの市場ととらえ、経済連携を強める協定を締結した意義は大きい。成長著しいアジアの活力を取り込み市場統合することで、貿易拡大のさらなる進展が期待されよう。
協定では、日本はASEANからの輸入額の90%以上の物品の関税を協定の発効と同時に撤廃する。ASEANは、インドネシアやタイなど主要六カ国が輸入額と品目数で90%以上の関税を十年以内に撤廃し、ベトナムなど四カ国も段階的に自由化する。
ASEAN内での貿易の多くが無税となれば、域内に進出している日系企業の輸出コストは削減される。域内各国から部品を調達し、最終製品を生産する家電や自動車などの製造業には有利に働こう。企業進出や域内での分業生産の拡大にもつながり、産業界の活性化などメリットは大きい。ASEAN側も日本からの投資拡大や物流活発化による経済発展が期待できる。お互いに共存共栄を目指して連携を深めるべきだろう。
ASEANとは中国、韓国が貿易自由化で先行しており、日本もようやく追撃する形となった。日本の貿易自由化政策は大きな節目を迎えたといえよう。政府は、中国、インドなどを加えた、東アジアサミット参加十六カ国による「東アジア自由経済圏」構想を掲げる。福田康夫首相も「EPAの推進は成長戦略の大きな柱」と位置付けており、今回の署名で構想実現に弾みを付けたい考えだ。
今後のEPA推進で焦点になりそうなのが、農産品の自由化に積極的なオーストラリアとの交渉だ。日本が保護したい牛肉や乳製品などの市場開放を強く求めており、交渉は難航しそうだ。しかし、貿易自由化の推進には避けて通れない問題だけに、国内の農業改革を加速し競争力をつける必要があろう。
南極観測船「しらせ」が、最後の任務を終え南極から帰ってきた。日本の南極観測を二十五年間支えてくれたが、老朽化には勝てず八月に引退する。船名を引き継ぐ後継船は、京都府舞鶴市の造船所で建造中で、きょう十六日に進水する。
一九五七年に始まった日本の南極観測は、オゾンホールや隕(いん)石(せき)発見など数々の成果を挙げてきた。しらせは、「宗谷」「ふじ」に続く三代目で、八三年から二十五回にわたり延べ約千四百人の観測隊員を運んだ。
昭和基地まで接近して物資を荷揚げすることが可能で、内陸部のドームふじ基地建設に道を開いた。同基地で掘削に成功した三千メートル以上の氷床コアは、太古からの気候変動を解明する大きな手掛かりとなった。
先日帰国した第四十八次隊の観測では、この一年で昭和基地周辺の温室効果ガス濃度が上昇したことも分かった。南極での観測継続は、温暖化問題の解決にとって重要だ。日本の平和的な国際貢献にもなろう。
四代目の新しらせは、二重構造タンクにして燃料漏れを予防し、生活ごみの専用処理施設を設けるなど環境に優しい設計である。初航海は、二〇〇九年十一月の予定で、今年の南極への輸送はオーストラリアの民間砕氷船をチャーターする。
建造が間に合わなかったのは、〇四年度の予算要求で、財政難を理由として財務省が後継船の建造費を認めなかったためだ。国民の理解を得るためには、南極観測の意義や成果を絶えず情報発信していくことが求められよう。
気掛かりなのは、引退後のしらせの引き取り先がまだ見つかっていないことだ。宗谷もふじも歴史的な船として保存されている。しらせにも老後の道を見つけてやりたい。
(2008年4月16日掲載)