2008年04月14日 (月)時論公論 「道路政局 潮目は変わるか」
(金子キャスター前説)
続いてニュース解説、時論公論です。先週末行われた今月のNHKの世論調査で、福田内閣の支持率がさらに下がりました。しかし、民主党への追い風にもかげりが見え始めています。福田政権と政局4月決戦の行方について、影山解説委員がお伝えします。
(影山解説委員)
今晩は。政局4月決戦の行方を決めると言われたNHKの世論調査の結果がまとまりました。今夜は、その結果から、今後の政局の行方を占ってみたいと思います。
まず、福田内閣の支持率は35%。先月よりさらに3ポイント下がりました。一方、不支持は55%。初めて50%を超えました。依然逆風は収まっていません。しかし、予想されていたような、危険水域である20%台まで支持率が落ち込む事態は回避しました。
福田総理大臣は、先週の党首討論でこれまでの対話路線を一変させ、民主党の対応を激しく批判しました。道路特定財源の一般税源化も一歩先に進めました。世論調査の結果からは、こうした福田総理大臣のなりふり構わぬ反転攻勢が、4月決戦をめぐる風向きにも微妙な変化を生んでいることがうかがえます。それを具体的に見て行きましょう。
これからの政局のポイントは、与党が税制関連法案を衆議院で再可決して、ガソリンの暫定税率を元に戻した時、どこまで世論が反発するかということです。世論調査の数字では、再可決への賛否については、「どちらとも言えない」が一番多くて、「反対、つまり暫定税率は元に戻すな」という人は26%。「元に戻すことに賛成」という人より3ポイント多いだけでした。また、国民から歓迎されているはずの、暫定税率が期限切れになった事態そのものについても、このように、「望ましいことではない」と答えた人の方が多いという、やや意外な結果も出ました。
民主党は、与党が再可決したら、福田総理大臣の問責決議案を参議院で可決する構えです。もし問責決議案が可決されたら福田総理大臣はどうすべきか。NHKの世論調査では、「衆議院の解散・総選挙に踏み切るべきだ」が51%、「総理大臣を辞めるべきだ」が11%。一方、「そのまま総理大臣を続ければいい」は27%にとどまりました。
小沢代表の戦略は、問責決議案を可決したら、福田内閣はもう相手に出来ないと言って、国会審議を全面的にボイコットする。そして、解散・総選挙に追い込むまでとことん粘るということです。これは、世論が味方しないと途中で腰砕けに終わる可能性もある、一か八かの戦術だけに、この数字は民主党にとって悪くない数字です。
ところが、その大前提となる、福田総理大臣に対する問責決議案を提出することへの賛否では逆の結果が出ています。世論調査の数字では「どちらとも言えない」が一番多くて、「賛成、出すべきだ」は、3ポイント差で、「反対、出すべきではない」より少なくなっています。これは、問責決議をテコに解散・総選挙に持ち込むことを考えている民主党にとっては誤算と言ってもいい世論の反応でしょう。
では、なぜ、民主党が期待したような結果が出ていないのでしょうか。それは民主党のかたくなな対決姿勢にも世論の批判が向かい始めていることが関係していると思います。
福田総理大臣は、評判の悪い道路特定財源を来年度から一般財源化するという新たな提案を行いました。しかし、民主党は、暫定税率の廃止には応えていない、だから、福田総理大臣の提案は受け入れられないとしています。
福田総理大臣の提案については、世論調査では「評価する」が58%。それなりに世論の支持を集めています。一方、これを受け入れられないとする民主党の対応については「評価しない」が56%でした。福田提案を拒否している民主党の姿勢に対して、かなりの国民が「かたくな過ぎるのではないか」と厳しい目を向けていることがわかります。
政党支持率でも、民主党はこの1か月で5ポイントも支持を減らしました。暫定税率を期限切れに追い込んだ民主党に国民が拍手喝さいするだろうという党内の読みはすっかり外れてしまいました。
日銀総裁人事でも、民主党は不同意を繰り返しました。「福田さんも福田さんだが、民主党も民主党だ」という世論が広がって来たとすれば、小沢代表が進めて来た対決姿勢一点張りの国会戦術も一定の見直しが迫られることになるでしょう。
一方の福田総理大臣も、支持率の低下に歯止めがかからない深刻な情勢に変わりありません。一般財源化を打ち出したことは今のところ評価されています。しかし、これも、進め方によっては福田総理大臣が党内で股裂きになる可能性がある大変厄介な問題です。
福田提案については、自民党の若手議員18人が連名で福田総理大臣を支持する声明を発表しました。しかし、それは、税制関連法案を再可決する前に、一般財源化を閣議決定して、後戻りできないようにすることが条件です。会の中心メンバーは、それが出来ない場合は、再可決に対する世論の理解が得られないとして、採決で造反する可能性も示唆しています。こうした議員の間には、5月12日以降再可決が必要になる道路財源特例法案についても、一般財源化という福田提案と内容的に矛盾するとして、法案を修正しない限り再可決には賛成出来ないという動きが広がっています。
一方、党内の道路関係議員の間には、一般財源化に依然強い抵抗があります。政府・与党は、先週、福田提案を政府・与党の方針にすることを決めました。しかし、これはあくまで野党側と交渉するための材料という位置付けです。伊吹幹事長は、閣議決定は、野党側と修正協議を始めて、それが合意した後でないと出来ないと言っています。本当に一般財源化されるかどうかは「野党の出方次第」という曖昧な形にして置くことで、福田総理大臣と道路関係議員の両方の顔を立てた形です。
従って、いつ、どこまではっきりした政府の方針にするかによって、自民党内に大きな亀裂が走る可能性があります。執行部の中にさえ、「福田さんにも発言の自由ぐらいある」と言って、新提案を軽んじる動きがありました。福田総理大臣がどこまで党内をまとめ切れるか。テレビを通じた国民向けの約束まで宙に浮いてしまえば、支持率は一気に危険水域まで向かうことになるでしょう。
このように、福田政権の前途も依然険しい道のりになりそうです。与党内では、再可決で政局が行き詰まっても、支持率が下がり続ける一方の福田政権では選挙はできないという見方が支配的です。内閣総辞職につながることを見込んで、ポスト福田や政界再編成をにらんだ動きも広がっています。
こうした情勢を見て、小沢代表の方も、最近は解散より福田内閣を倒すことが先だと考え始めているようです。ねじれ国会の厳しさは誰がやっても同じですから、次の政権は発足直後の支持率が高いうちに解散に打って出るに違いないし、必ずそこに追い込むという2段階の戦略です。世論の批判を踏まえた国会戦術の見直しはあり得ても、小沢体制が続く限り、この基本戦略が変わることはないでしょう。
となると、いずれにせよ、与党が再可決に踏み切った途端、永田町は、文字通り、政局一色の展開になるでしょう。与党は、きょう、福田提案をもとにした修正協議を野党側に呼びかけましたが、協議が始まったとしても、そういう雰囲気になれば、話がまとまる可能性はほとんどないと言っていいでしょう。
しかし、長い間、聖域扱いされて来た道路特定財源について、ここまで議論が進んで来たのは、数少ないねじれ国会のプラス面の1つです。すべて政局に押し流されたということになったら、国民は「政治はやっぱり何も決められない」と今度こそ呆れ果てることになるでしょう。一般財源化への期待や対決路線に対する批判。その世論をきちんと受け止めて、この国会で道路財源改革に成果を上げること。それが与野党を超えた政治の役割として、いま求められていると思います。
投稿者:影山 日出夫 | 投稿時間:23:59