後期高齢者(長寿)医療制度で、新設された後期高齢者診療料が形骸化(けいがいか)している。診療費を定額化して医療費抑制を狙う制度の柱の一つだが、この診療料を利用する登録をした県内の診療所は15日現在で1%程度(茨城社会保険事務局調べ)にとどまっている。県医師会は「医療を制限する萎縮(いしゅく)医療そのものだ」と批判するが、開業医が敬遠する背景には、減収につながる懸念もあるようだ。【八田浩輔】
後期高齢者診療料は、75歳以上の糖尿病などの慢性患者が主治医を指定し、定額で外来診療が受けられる仕組み。一部を除く検査や画像診断などは何度実施しても月6000円で、患者負担は1割の600円となる。定額制をとるか、診療内容に応じた従来の出来高制をとるかは患者の同意を得て医療機関が選ぶことができる。高齢者医療費が膨らみ続ける中、複数の医療機関が重複して薬を処方するなど無駄を減らす狙いがあり、患者にとっては医療費の負担を軽減できる側面もある。
これに対し、県医師会は先月末「年齢により人間の価値を差別する制限医療」「医療の質の低下につながる」などとして都道府県レベルの医師会で初めて制度に反対を表明。会員に対し、診療報酬を従来通りの出来高制で算定するよう通知した。
県医師会の原中勝征会長は「高齢者は同時に複数の病気を抱えていることが多い。一つの病気で主治医を選ぶ今回の制度は実態に合わない」と説明する。山形県医師会も同調するなど、医療現場の反対運動は全国的にも広がりを見せているが、医療機関の懐事情も関係している。県内の男性開業医は、今回の定額診療費が低すぎることを指摘。「必要な診療で優に600点(6000円)を超えるケースが出てくる。手続きも煩雑で割に合わない」とこぼす。
制度への相次ぐ批判に、厚生労働省は「75歳以上の方が必要な医療が受けられないことはない」と説明。制度を運用する県後期高齢者医療広域連合は、医師会の対応について「医療費の抑制など一定の効果にもつながるはずだ。(定額診療を)実施していただけることを期待したい」と話す。
毎日新聞 2008年4月16日 地方版