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追い込まれているのは誰か

2008年4月2日 The Commons
 4月1日の午前0時を期してガソリン税の暫定税率が期限切れを迎え、製油所から出荷されるガソリンは1リットル当たり25円値下げされることになった。値下げされたガソリンが店頭に届くまでには2,3日かかるのだが、ガソリンスタンドでは早くも値下げ競争が始まってメディアはその混乱ぶりを大きく取り上げている。
 
 こうした事態を福田総理が「政治のツケを国民にまわすことになった」と述べて謝罪したことから、メディアは口をそろえて「政治は機能不全」と大仰に騒いでいる。
 その上で「再議決をためらうな」と主張する読売新聞と産経新聞、「解散総選挙で国民の信を問え」と主張する毎日新聞、「再可決して一般財源化の公約を果たせ」と主張する日本経済新聞、「どちらが有権者に説得力を持つか競い合うしかない」と何やら匙を投げたような朝日新聞と社説は各社各様だが、嘆きぶりは各社に共通している。
 
 日銀総裁人事に続いて再び新聞の社説に異議を申し立てることになるが、我々が目にしている政治の現状は本当に「機能不全」なのだろうか。私にはそうは思えない。私には道路特定財源を一般財源化し、暫定税率を来年度から廃止するための政治プロセスにあると映っている。
 おそらく認識の違いの第一は去年の7月29日の前と後で政治の構図が全く変わった事に気付いているかいないか、第二は与野党対立の裏側に実はもっと大きな対立がある事を知っているかいないかではないかと思う。
 
 何度も書いてきたが参議院で過半数を失った与党は、野党の協力なしには何も決める事が出来ないという「冷徹な現実」がある。従って予算を通すにも野党の協力は不可欠である。しかし平成20年度予算案は野党との事前協議なしに与党だけで作成された。だから野党が反対する道路特定財源、道路中期計画、暫定税率維持がそのまま国会を通らない事は政府与党も百も承知だった。修正は必ず必要になる。原案には修正のノリシロが付けられた。通常5年間で更新してきた暫定税率や中期計画の期間をわざわざ10年と長くしていざとなれば元の5年に戻すというノリシロである。
 
 これは野党から見れば「冷徹な現実」を軽く見た「ふざけたノリシロ」である。当然道路特定財源の一般財源化と暫定税率の廃止がなければ認めないことになった。しかし満額回答でなければ駄目と言うのも強硬すぎる。暫定税率に関しては20年度からの廃止にこだわらない姿勢を民主党は当初から見せていた。「ガソリン値下げ隊」が全国を遊説することも自粛した。国民に火がついて「今年からの値下げ」を止められなくなることを恐れたからである。
 
 これに対して福田総理は当初から野党の要求を受け入れるしかないと考えていた。しかしそれは道路族議員、国土交通省、関係業界を敵にまわす事になる。かつて一般財源化を声高に叫びながら小泉前総理は道路族を制圧する事が出来なかった。道路公団民営化をはじめ道路改革は全てが骨抜きにされた。当時の古賀誠道路調査会長が満足げな顔をしていた事を覚えている方も多いだろう。小泉前総理が成し遂げられなかった事をやらなければ予算は通らない。それを福田総理は覚悟していたはずである。
 
 敵は野党ではなく政府与党の側にいる。小泉前総理はその敵を「抵抗勢力」と呼んで戦う相手とした。しかし道路族のドンはいまや自民党執行部の重鎮の座にある。これを「抵抗勢力」と呼ぶ事は福田総理には出来ない。しかも7月29日以降の政府与党は野党の協力なしには何も出来ない。そこから出てくる答は一つである。野党に徹底して反対を貫いてもらい、やむなく要求を受け入れざるをえなくなって初めて小泉前総理が勝てなかった相手を黙らせる事が出来る。自分から民主党案を丸呑みは出来ないが、結果として丸呑みに近い形で決着する。そのためには誰もが仕方ないと思う混乱が必要になる。
 
 それは狭い道である。しかし福田総理はその道を歩んでいると私には見える。郵政事業の既得権益と戦うために小泉総理は前代未聞の分裂選挙を仕組んだ。一か八かの賭けだったと思う。それほどに既得権益との戦いは大変である。何も知らないテレビのニュースキャスターは「政治家が議論を尽くせば世の中は正しい方向に動く」かの如く言うが、世の中がそうならば実は政治家なんか要らない。学者や評論家や教師が正論を唱えていけば世界は幸福になれる。しかしそうはならないから政治が必要で、政治家が権謀術数を尽くさなければ世の中は何も変えられない。不幸なことかもしれないがそれが人間社会の現実である。
 
 3月27日、福田総理は突然記者会見を開いて道路特定財源の21年度からの一般財源化に言及した。寝耳に水の自民党執行部は「殿、ご乱心」と叫んだと言う。翌日の参議院予算委員会で福田総理は「20年度に限り暫定税率を認めて欲しい」と発言し、暫定税率についても21年度から廃止する事を臭わせた。議場は一瞬どよめき、質問者の社民党福島みずほ氏は「総理の発言を重く受け止める」と答えて野党も妥協できる姿勢を示した。しかしその後の福田総理は一転して暫定税率維持を繰り返すようになる。私はあの発言を野党に対して腹の内を一瞬見せたサインだと思っている。
 
 それからの福田総理はまるで財務省の代理人のようだ。「暫定税率の2兆6千億円は消費税の1%に当たる」とか、「暫定税率と呼ぶかどうかは分からないが、税収を維持しないと教育や福祉がおろそかになる」などの発言を繰り返し、民主党の言うとおりに暫定税率を廃止した場合にはその代わりに消費税上げを認めろという口ぶりだ。そこらがこれから想定される党首会談の交渉マターになると思われる。
 
 最終決着の舞台となるだろう党首会談が実現するためには、民主党の中から「修正協議に応ずる事が必要だ」との声が上がらなければならない。小沢代表には大連立を民主党内から拒否された経緯があり、自分から「党首会談を受ける」とは言えない。今はひたすら強硬姿勢を続けるしかない。早期の解散総選挙に言及するなどの小沢代表の強硬姿勢は自民党内の道路族と反道路族との対立を強めさせ、間接的に道路族を押さえなければならない福田総理を助けている。
 
 しかし強硬姿勢は同時に民主党自身に対する批判も強めさせる事になる。そうなればすでに前原誠司前代表が表明しているように小沢代表に批判的な勢力は強硬姿勢に反対して「修正協議を行うべし」との声を強めることになる。それが大勢になれば小沢代表は党内から足を引っ張られることなく党首会談に臨む事が出来るようになる。
 
 半世紀続いてきた道路特定財源をやめる事も、30年間続いてきた暫定税率をやめる事も既得権益の側からすれば自分たちの生死を賭けた重大事である。彼らは小泉内閣以来死に物狂いの抵抗を続けてきたと思う。しかし今その既得権益が大きく後退せざるを得ないところまで追い込まれた。追い込まれているのは政治ではない。道路利権をむさぼってきた既得権益である。勿論一般財源化が実現すれば全て問題が解決されるわけではない。今度は違う形で生き残るための方策が考えられ、違う形の既得権益が生まれて来る。それは人間が生きている限り絶える事はない。だからまたそれを変えるために権謀術数を尽くす政治が必要になる。
 
 私は政治が常に正しい事を実現するとは思っていないが、あまりにも情緒的な政治批判を見るとつい文句を言いたくなる。今回メディアは政治を機能不全と決め付けたが、それを言うなら去年の7月29日からすでに機能不全に陥っていることに気付かずにきた自らの不明を恥ずべきである。
 また参議院で過半数を失った与党が幸か不幸か衆議院で三分の二を有している現状は、いくらマスコミが叫んでも、そしてそれが正論であろうとも与党が衆議院選挙に踏み切るはずがないことを知るべきである。与党が解散総選挙を決断するのはそれによって民主党が分裂し、参議院から17人が与党に合流する時だけである。
 
 さらに新聞が「予算関連法案を再可決しろ」と叫んでみても、それは全く現実味が無いことに気付くべきである。第一に予算関連法案を再可決すると、福田総理が表明した21年度からの一般財源化の方針と相容れなくなり、道路族は喜ぶが、財務省が怒ることになる。それによって与党内抗争が勃発する。またそれ以前に与党から17人が再可決に反対すれば三分の二は失われ、再可決そのものが出来なくなる。選挙の事を考えれば値上げに賛成したい議員はいないだろう。道路族のために落選したくないと思う議員は17人を上回るはずだ。さらに仮に財務省を押さえ、議員の造反を押さられても、実は予算関連法案の再可決だけでは暫定税率分の予算を道路建設に使う事が出来ない。そのためにはもう一本の法案の再可決が必要となり、それは5月13日以降でないと再可決が出来ない。だから新聞が「再可決をしろ」と言うのはほとんど無責任な主張なのである。そしてもっと理解できないのは再可決の時期を4月29日以降と見て、27日の山口2区の補欠選挙の争点になるとの解説まである事だ。そうなるためには民主党が参議院での法案の採決を29日まで行わずにずるずると引き延ばす必要がある。そんなことが可能だろうか。もっと早い時点で問題は決着するはずである。なんとも無責任な見方がメディアには溢れている。一体わが国のメディアはどうなっているのだろうか。
(田中良紹)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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