食料品価格の急騰、新興国の新たな投資リスクに

2008年 04月 15日 15:43 JST
 
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 [ロンドン 14日 ロイター] 食料品価格の急騰を受けた暴動や政府への不満が、新興国の新たな投資リスクとして浮上している。新興国は、米サブプライムローン問題の影響を免れた有望な投資先とされることも多かったが、食料品価格の急騰で投資先としての魅力が低下するとの見方が出ている。

 食料品は、主要作付地域の干ばつ、バイオ燃料向けの需要拡大、原油高などの影響で、生産・輸送コストが上昇。新興国の食料需要増大も価格上昇の一因になっている。

 サブプライム問題の影響もあり、米国などの先進国では食品需要が伸び悩むとみられるが、新興国では今後も需要の拡大が続く見通し。

 サブプライム問題の影響が最も軽微だった新興国が、食品急騰の影響を最も受けているという図式だ。

 国連によると、食品価格は1月末時点で前年比35%上昇、その後さらに65%値上がりしているという。

 コメルツ銀行の新興国市場調査担当ヘッド、マイケル・ガンスケ氏は「食品価格は大きな問題だ」と指摘。「おそらく貧困層では、食費が支出全体の5─6割を占める。特に貧富の差が激しい国では、大きな問題になり得る」と述べた。

 食料品高騰を背景に暴動が続いていたハイチでは、上院が首相を解任。アフリカのカメルーン、コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、エチオピア、マダガスカルのほか、フィリピンやインドネシアといった比較的経済の発達した国でも暴動が起きている。

 多くの途上国は海外からの支援に依存しており、これまでもリスクの高い投資先とされてきた。ただ、今後食料品の高騰で混乱が広がれば、投資先としての魅力が低下する可能性もある。

 フィリピン、インドネシアの株式市場は、インフレなどへの懸念を背景に、今年に入りそれぞれ19%、17%下落した。

 ただ、それほど影響を受けていない地域もある。エジプトの株式市場は最高値を更新。同国は、アジアとの通商関係を強化しており、エジプト政府は、欧米の経済問題からある程度遮断されていると主張する。

 ただエジプトでも先週、物価上昇に抗議する若者と労働者数千人が、警官隊と衝突する事態が発生した。

 専門家は、新興国には、物価と賃金の連鎖的上昇、保護主義の拡大、財政収支の悪化、海外直接投資への課税強化など、さまざまなリスクがあると指摘している。 

 <インフレ抑制か成長維持か>

 豊かな生活に慣れた都市部の住民が、食料品の値上げに抗議し、政府に補助金の支給や価格統制を求めるケースも出ている。

 洪水やサイクロンなど自然災害で農作物の収穫が激減すれば、対処不能になり、混乱が拡大するリスクもある。気候変動が、今まで以上に大きな懸念要因となる可能性が出てきた。

 インフレの進行に歯止めをかけるため、利上げを実施すれば、景気減速のリスクが高まる。

 中国など一部の新興国は、もともと経済成長率が高いため、欧米諸国に比べて柔軟にインフレに対応できるとの指摘もある。

 ただ、食品高騰をめぐる混乱が途上国でさらに拡大すれば、必需品以外の支出が減り、アジア諸国の成長の原動力となってきた安価な消費財の需要が、落ち込むリスクもある。

 食料補助を拡大する新興国も多く、財政収支悪化のリスクが浮上する。商品価格の高騰で潤っている国はまだ余裕があるかもしれないが、財政が悪化すれば、債務不履行や増税のリスクが高まる。

 中国など、目覚しい経済発展を遂げている新興国や、大型の政府系ファンドが活躍する資源国では、補助金を支給する余裕があるだろう。

 だが、すでに一部で暴動が起きているモザンピークなどでは、大幅な増税を余儀なくされたり、外資開発鉱区への権益拡大を要求する動きが出るのではないか、との見方が出ている。

 <未熟な政策>

 食料品高騰で農家は潤うとの見方もあるが、インドなどの主要農業国は、国内価格を据え置くため、食料品の輸出を制限しており、農家は事実上、国際食品価格上昇の恩恵を受けられない状態にある。これが増産意欲の減退につながっているとの指摘も出ている。

 コンサルタント会社コントロール・リスクスは、パキスタンが総選挙前に導入した価格統制について、小麦粉の生産が減り、問題が悪化したと分析している。

 同社のアナリスト、ジョナサン・ウッド氏は「パキスタンでは未熟な政策が数多くとられている。国際価格上昇の恩恵を受けられないのであれば、農家は生産を増やそうとは思わないだろう」と述べた。

 特にモザンビークなど、国内で国際的な大型プロジェクトがあまり行われていない国では、増税のほか、外資開発鉱区・事業への権益拡大を要求する動きが出てくる可能性があるという。

 コメルツ銀行のガンスケ氏は「ナイジェリアは、エネルギー価格の上昇で潤っているが、貧富の差が激しいため、問題が起きるリスクが非常に高い」と述べている。

 <農業関連株に投資>

 食料品価格の高騰は世界的な問題となっているが、長期的には、中南米、豪州、ニュージーランド、北米などの生産者に恩恵をもたらす可能性がある。

 資産運用会社のエクレクティカ・アセット・マネジメントは、農業関連銘柄に3億ドルを投資した。投資対象は、種子会社からトラクターメーカーまでさまざま。投資対象の35─40%は米国企業という。

 同社は、国際食品価格のサイクルからみて、食料品はさらに2─3倍値上がりすると予想。前回は1970年代に食品価格が高騰したという。

 同社のファンドマネジャー、ジョージ・リー氏は「(食糧問題は)なんとか乗り切れるはずだ。米国の農業関連株を買うチャンスだと考えている。ただ、農業関連株だけが上昇しても、米経済が上向くわけではない。住宅関連市場は、農業よりもはるかに規模が大きい。結局、米経済の見通しには悲観的にならざるを得ない」と述べた。

(ロイター日本語サービス 原文:Peter Apps記者、翻訳:深滝壱哉)

 
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