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【放送芸能】『裁判員』控え重い課題 光市母子殺害報道でBPO意見2008年4月16日 朝刊 山口県光市の母子殺害事件裁判を扱った番組について、放送界の第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会が十五日、公表した意見は、現状の裁判報道が抱える問題点を提起した。裁判員制度のスタートを来年五月に控え、各局は重い課題を突きつけられた。 (近藤晶) 「裁判員制度では、一般市民が量刑まで決める。テレビが不当な影響を与え、誤った裁判が行われることになれば、非常に重大な問題になる」。裁判員制度開始を見据え、同委員会の川端和治委員長は会見でこう危惧(きぐ)した。 民放連は今年一月、裁判員制度下における事件報道についての基準=別表=をまとめているが、「基準は今回の放送の後に出されたものだが、この基準が実現されているとはいえない」(川端委員長)と厳しい見方を示した。 同委員会は、関西テレビの捏造(ねつぞう)問題をきっかけに、昨年五月、BPO内に設立。評論家の立花隆氏ら識者十人で構成され、虚偽の内容によって視聴者に著しい誤解を与えた番組があった場合、放送局に勧告や見解を出し、再発防止策の実行などを求める。従来、個別の番組に関する放送倫理上の問題を検証するが、今回、放送全般に対して意見を述べることにしたのは、一連の裁判報道全体に共通した問題があるのではないかとの懸念があったためだ。 ◇ 委員会が審議したのは、二十番組三十三本計七時間半に上る。小委員会を設け、各局へのアンケートと番組制作者への聞き取り調査も実施。(1)番組制作者は刑事裁判の仕組みをどの程度理解していたか(2)適切な取材・演出・表現をしたか−を念頭に検証を進めた。 意見によると、一連の放送の基本的な構成はこうだ。被告の荒唐無稽(むけい)で奇異な供述の部分を、イラストやナレーションで断片的に再現。次に被害者遺族に会見やインタビューで、その供述や弁護団に対する怒りや無念の気持ちを語らせる。さらにスタジオの司会者やコメンテーターが、被告・弁護団を強く非難し、被害者遺族に同情や共感を示す。 意見ではまず、裁判所や弁護人の役割、刑事裁判の「当事者主義」について、番組制作者の知識不足に言及。「初歩的な知識を欠いた放送は、感情的に行われるほど視聴者に裁判制度に関するゆがんだ認識を与えかねない」と危惧した。 被告に関する報道では「一つとして、被告人の心理や内面の分析・解明を試みた番組はなく、このこと自体が異様」と問題視。演出や表現についても「安易な対比的手法は、事件の理解にも犯罪防止にも役立たないことはあきらかであり、深刻に再考されるべきである」と見直しを求めた。 光市事件の差し戻し控訴審の判決は、今月二十二日に予定されている。同委員会は、意見について「どういう裁判報道や事件報道が望ましいのか真剣に検討してほしい。その材料を提供した」としている。意見で指摘された問題点を踏まえ、各局が、今後、裁判報道にどう生かしていくかが課題になる。 NHKと、民放各局でつくる日本民間放送連盟は今回の意見について、いずれも十五日の時点では「コメントはない」としている。 読売テレビ(大阪市)は、「放送倫理検証委員会の審議の結果として出された、一つのご意見として承ります」としている。 裁判員制度下における事件報道について(関係項目) ・事件報道にあたっては、被疑者・被告人の主張に耳を傾ける。 ・一方的に社会的制裁を加えるような報道は避ける。 ・事件の本質や背景を理解するうえで欠かせないと判断される情報を報じる際は、当事者の名誉・プライバシーを尊重する。 ・多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける。 ・予断を排し、その時々の事実をありのままに伝え、情報源秘匿の原則に反しない範囲で、情報の発信元を明らかにする。また、未確認の情報はその旨を明示する。 ・国民が刑事裁判への理解を深めるために、刑事手続きの原則について報道することに努める。 (民放連 2008年1月17日) <山口県光市母子殺害事件> 1999年4月、山口県光市で会社員・本村洋さんの妻=当時(23)=と長女=同11カ月=が自宅で殺され、県警は近くに住む元少年=同(18)=を逮捕した。検察側の死刑求刑に対し、一審の山口地裁(2000年3月)、二審の広島高裁(02年3月)ともに無期懲役の判決。だが、最高裁は06年6月、二審判決を破棄、広島高裁に差し戻した。一、二審とも殺人、強姦致死などの事実認定では争いがなかったが、現弁護団は殺意や強姦の意思を否定している。
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