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【記者ブログ】偏向報道と報道統制、どっちが罪深い? 福島香織 (4/4ページ)
■4月5日、別のネチズンが「南方都市報の反動は歴史的根元的なものだ」とする文章を発表。これに対し南方都市報のある記者がネット上に中華ネットの愛国者を批判する文章を発表したため、この論評を巡るバトルが激化。
■また同じ日、中華ネットで南方都市報のファンを名乗るネチズンが「南方都市報は売国奴なんかじゃない!」という擁護論を発表。同紙が本当に売国奴新聞かどうかは、もっと多くの証拠が必要だといった主張。
■4月6日は、中華ネットのネチズンが「南方都市報よ、世の中の価値で、民族の統一を凌駕するものはない!」と愛国的反論を発表。また別のネチズンが「ロンドンで、チベット独立派が聖火を強奪しようとしたが、これを南方都市報と長平はなんと論評する?」といった反論。「南方都市報の長平よ、たとえデマを流させても、あなたの言論の自由は破壊されないか」といった論評が発表された。
■これは中華ネットという掲示板サイトだけの動きだが、同様の議論がさまざまなネット掲示板でおきたのだった。だいたい長平論評への反対2、支持1の割合だろうか。
■私は、ネット時代の中国のジャーナリズムは、こういう風に成長していくんだなあ、とちょっと感動したね。中国の公式メディアは党中央宣伝部の指導を受け、ジャーナリズムというよりは宣伝、プロパガンダがお仕事である。ネットのない、一昔前なら、中国の国民は真相をしろうともせずに、当局の公式発表を(本当はあまり信じていないが)そのまま受け取って納得していたのではないか。
■ところが、いまやネットがあり、国内報道であきたらないネチズンたちは、海外の報道から情報を集める。もちろん、ネット統制は厳しく、アクセス禁止などもあるが、海外の同胞が動画や写真を送ってくれれば、それがコピペされ、瞬く間にひろがる。なおかつ国内報道と海外報道を見比べ、海外報道の誤報を指摘できるだけの判断力や知識を持ちうるのだ。で、一般のネットユーザーにすぎない読者がそれを自ら発信して、ネット世論を起こして、世に自分の意見や正しさを問うことも可能なのだ。
■メディアは党の喉舌で、世論を正しく導くのが使命だが、ネット時代は読者がメディアの偏向報道を是正し、議論をしてその報道の問題点、責任を追及することができる。その議論の過程で、誰もが情報の取捨選択と価値判断を自分でして意見表明できる自由をかみしめるんじゃないだろうか。それがネットジャーナリズムの真価というなら、これについては、ひょっとすると中国の方が日本より1歩半くらい進んでいる部分があるかもしれない。
■長平氏が指摘するのは、まさにアンチCNNサイトが、ネットの(制限はあるとはいえ比較的大きな)自由が生んだ落とし子であり、その自由の落とし子として、欧米メディア批判に終始するのではなく、国内の報道統制の問題にも目を向けてほしい、という呼びかけである。もっとも、報道統制批判の矛先の相手は国家権力であり、独裁国家で一般庶民はそんなこと恐ろしくてできないのだから、無茶いうなよ、という感じではある。あるいは、長平氏はひょっとして、このアンチCNNサイトが一般ネチズンが自発的に立ち上げた純然たる民間サイトだとは思っていないのかもしれないが。(これは想像)
■さて一般市民はもちろん、普通の記者だって恐ろしくてなかなかできない、中国の報道統制批判を、「偏向報道は世論にたたかれることで修正できるが、国家権力による報道統制はどうしようもない」という言い方でずばっとやってしまった長平氏は、目下、外部からの取材はうけつけず、本人のブログもアクセスできず、相当の圧力を受けている様子。せっかくVOAから賞もおくられたのに、それについての書き込みも軒並み削除だ。最後は国家権力による報道統制で、こういった活発な議論が封殺されてしまうのかと、と思うと非常に残念である。
■しかし、アンチCNNサイトと長平論評をめぐる議論がネット上で繰り広げられた過程で、やはり報道の自由、ネットの自由を押し広げようとがんばり続けている、中国のジャーナリズムの健在を確認できた。これなら、チベット騒乱の真相だって、いずれたどり着けるはずだ。弊ブログも、アンチCNNサイトほど影響力はなくとも、小さな議論を喚起できるよう、コメント欄は誰にでもオープンでありたい。誰かが来ちゃダメ、なんてことはいいわないよ。偏向報道だと思われるなら、その偏向を修正すべく、論拠を出して批判してほしい。
<2008/04/15 02:45>
▼「福島香織」の記者ブログ<北京趣聞博客 (ぺきんこねたぶろぐ)> http://fukushimak.iza.ne.jp/blog/
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