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【社説】

高齢者医療制度 『混乱』を改善に生かせ

2008年4月16日

 七十五歳以上を対象にした「後期高齢者(長寿)医療制度」の保険料の年金からの天引きが始まった。予想通り、高齢者の強い反発を招いた。政府は思い切った改善策を打ち出すべきである。

 本来、三月末までに届くはずだった「被保険者証」が届かなかったり、届いても「ダイレクトメール」と勘違いして捨ててしまうケースが頻発した。それほど新しい制度は高齢者に周知されず、混乱を招いている。

 お粗末というほかない。それに加え、十五日から保険料の年金からの天引きだ。厚生労働省は、保険料徴収のコスト削減につながると利点を強調するが、年金記録不備問題が解決していない中で「徴収だけを優先している」と高齢者に映ったとしても無理もない。

 天引きをやめても納める保険料の額が変わるわけではない。それでも反対の声があがるのは不信感が強いからだ。厚労省は昨年、年金記録不備問題が明るみに出た際にこのことに気づくべきだった。

 年金記録不備問題の解決の見通しが立つまで天引きを控えないと不満が収まらないのではないか。その間に記録不備問題に全力で取り組む方が信頼回復につながる。

 政府がいう「長寿医療制度」はとにかく分かりづらい。七十五歳以上が切り離されて別の制度になったのは自民、公明両党の改革案を折衷したためだ。そこに従来の制度からの移行措置、軽減措置を絡ませたため一層複雑になった。

 その結果、七十五歳以上の高齢者それぞれの保険料が以前の国民健康保険の保険料よりも上がるのか下がるのか、また将来どこまで保険料が上がるのかが分からず、不安を招いた。さらに子供の扶養家族だった高齢者も保険料の支払いを求められるようになった。

 それだけに国民に対して事前に十分説明すべきだったが、ほとんどなされなかった。皮肉にも一連の混乱でようやく制度の全体像が少し国民に知られるようになった。高齢者医療のあり方の議論は、これから本格化するといってもいいだろう。

 長寿医療制度の運営を担う保険者は、都道府県別に設置された「広域連合」である。国民健康保険を運営する市町村よりも財政規模を拡大し、安定化を図る狙いはいいとしても、高齢者の不安を和らげるのに全く機能していないことも明らかになった。このような存在感の薄い「広域連合」が今後どこまで保険者として役割を果たしていけるのか疑問である。

 

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