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社説1 若者らの職探しの選択肢を狭めるな(4/16)

 公の仕事だからといって、その担い手が公務員でなければ駄目だということにはならない。

 警察が駐車違反の取り締まりを民間の監視員に委ねるようになったのが典型だ。この仕組みは定着し、警察の仕事の効率化と幹線道路などでの違法駐車減らしに役立っている。

 公共職業安定所(ハローワーク)が実施している職業紹介事業を民間企業に委ねるのも長年の懸案だ。社会保険事務所の職員と同様に、お役所仕事に陥りがちな職安職員に緊張感をもたせて、国民へのサービスを向上させる特効薬になるからだ。

 政府は昨年、東京23区内に15あるハローワークのうち渋谷、墨田の2カ所について窓口の一部を民間に開放することを決めた。

 公務員が応対する厚生労働省直営の窓口を残しつつ、同じ建物に民間の窓口もつくる。仕事を探したい人は受付に出向き、どちらかで職探しする。両方を訪ねるのも自由だ。

 内閣府は先月、この官民併存方式を可能にするための市場化テスト法改正案を国会に出した。ところが成立の見通しについて、ここにきて雲行きが怪しくなってきた。一部の労働組合団体が反対する姿勢を鮮明にし、民主党など野党の「労組族」議員への働きかけを強めている。

 反対の理由について、自治労の岡部謙治委員長は2月の労働政策審議会で「違法派遣、偽装請負、労災事故、不払い残業が頻発している。障害者や母子家庭の母などへのきめ細やかなサービスが今ほど求められることはない」と述べている。

 理解に苦しむ発言だ。障害者や母子世帯など社会的な弱者がきめ細かなサービスを求めているからこそ、民の創意工夫を生かすのが筋ではないか。現に、長期失業者などを対象にした就職支援事業の実績をみると、市場化テストで公務員から民間に取って代わったところは、おおむね利用者の評判が上がっている。

 しかも今回は公務員が応対する窓口を残す。弱者がハローワークから締め出されることはない。

 連合の代表が入っている労政審分科会は1月、改正法案を大筋で妥当なものと認めている。自治労が後になって異を唱えるのは、社会保険庁と同様に公務員労組の既得権を守ろうとしているからではないか。そう疑われても反論は難しいだろう。

 とくに若い失業者やフリーターにとって、職探しの選択肢は多様なほうが望ましい。非正規社員の問題など雇用格差の緩和を訴える民主党がハローワークの多様化を阻もうとするのは、本末転倒である。

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