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NIKKEI NET

社説1 高齢者の「医療不安」和らげる努力を(4/15)

 新年度に始まった後期高齢者医療制度をめぐって当の高齢者の間に混乱が広がっている。保険証が届かない世帯が続出しているうえに、制度がどんなものかを知らされていない人が大半というお粗末さだ。

 年金、医療など国の社会保障制度に国民が抱く不信感はかつてなく高い。病気やけがをする可能性が大きい高齢者はなおさらだ。「医療不安」といってもいい。政府と新制度を運営する都道府県(広域連合)、保険証送付を担当する市区町村は連携を密にして医療不安を和らげる努力に手を尽くすべきである。

 新制度の特徴は75歳以上の高齢者1300万人を独立させた点にある。財源は(1)高齢者自身が払う保険料(2)国と地方自治体が拠出する税金(3)現役世代が健康保険制度を通じて分担する支援金――で構成する。

 混乱の第1は、本人に新しい保険証が届いていない問題だ。市区町村が住所を正しく把握しておらず、自治体の担当課に返送される例が相次いでいる。受け取った人がダイレクトメールと勘違いし、封も切らずに捨てた例も少なくないという。

 有効な保険証がなければ、患者は病院などで診療を受けられない。厚生労働省は国民健康保険など旧来の保険証での受診を認めることにしたが、新保険証を行き渡らせる努力が何よりも大切だ。自治会組織の活用や戸別訪問も必要になろう。

 混乱の第2は、保険料の徴収方法にある。介護保険と同様に、原則として厚生年金や国民年金から天引きするやり方だ。納付漏れを最小限に抑えるためにもやむを得ない方法だが、大半の高齢者がこの方法を知らなかったのは厚労省の怠慢だ。

 この仕組みは2006年に成立した医療制度改革法に盛り込まれた。その後、与党が主導して07年度の補正予算で一部の保険料負担を凍結することにした。最初の天引きの日はきょう15日だ。

 行政側は規定どおり天引きするのが当然と考える。だが法律の成立は2年前だ。当時、報道されていても多くの人は忘れているだろう。しかもこの間に負担増の一部凍結という重要な変更があったのに、政府は分かりやすく説明する努力を怠った。説明用パンフレットも、虫眼鏡なしでは読めないような細かな字や難解な行政用語を使っていては意味がない。それこそ税金の無駄遣いだ。

 政府・自治体の一連の対応は、首相の口癖である「国民目線に立った行政」とはほど遠い。すべての関係者がそれを自覚しなければ、早晩この制度は立ちゆかなくなる。

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