「ねじれ国会」の下で政治の閉塞(へいそく)状態が続く中、地域限定ながら、民意を国政に示す機会がやってきた。福田内閣発足後、初の国政選挙となる衆院山口2区補選が15日告示され、27日の投開票日に向け自民、民主両党候補による一騎打ちの選挙戦が始まった。ガソリン税の暫定税率維持をめぐり激しく対立する中だけに、両党とも総力戦の態勢だ。与野党は来る衆院選の前哨戦と位置づけ、主要な政策で有権者への説明を競い合う場とすべきである。
これまでも衆参両院の補欠選挙は直近の民意を問う指標となり、与野党の攻防に影響を与えてきた。しかし今補選の結果は、福田康夫首相、民主党の小沢一郎代表両党首の命運を左右しかねないほど重い。
暫定税率は4月1日から期限切れしたが、租税特別措置法改正案の衆院通過から60日を経過する29日以降、衆院での再可決が可能となる。暫定税率に反対する民主党は税率維持の是非を争点に掲げ、選挙結果は再可決をめぐる政府・与党の判断に少なからず影響するとみられる。再可決が封じられれば首相の政権運営は厳しさを増し、逆に税率復元に道を開けば小沢氏が党内で求心力を失う。まさに正念場である。
そのうえで自民、民主を中心とする政党に望むのは、今補選を国民に向けた政策論争を深める場として意識することだ。
毎日新聞が今月実施した世論調査によると、仮に参院で首相問責決議案が可決された場合、「衆院を解散し、総選挙を行うべきだ」とする回答は55%と最多だった。混迷した日銀総裁人事に代表される「決まらない政治」の中、国民も早期の衆院選を志向し始めたことの表れだろう。私たちもある程度の準備期間を経たうえで、首相は民意を問うべきだと主張している。
しかし、有権者に審判を仰ぐマニフェストの作成が多くの政党で進んでいない。その意味で、補選は自民、民主両党が具体的に政策を説明できるかを試す機会となる。自民党はガソリン問題は不利とみて地域活性化に絞る戦術のようだが、議論を避けるべきでない。道路特定財源の一般財源化をどんな道筋で実現するか、暫定税率の将来的あり方をどう考えるか、より明らかにする必要がある。
一方で民主党も早期の衆院選による政権交代を主張する以上、年金問題や高齢者医療など補選で争点とする課題について、財源など具体像を語る責任がある。批判で追い風を頼むだけでは不十分だ。
首相と小沢氏によるさきの党首討論の応酬は、与野党攻防の軸足が国会での駆け引きから、世論を意識した論戦に移りつつあることを実感させた。党幹部に遊説を任せておくことはない。来る衆院選に堪えうるか、党首の発信力が試される局面である。
毎日新聞 2008年4月16日 東京朝刊