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社説:高齢者医療 広がる怒り 「うば捨て」にしてはならない

 高齢者が怒っている。年金からの保険料天引きが始まった後期高齢者(長寿)医療制度の混乱は、もはや失政というしかない。

 次から次へと問題や不手際が噴出し、医療制度に限らず社会保障全体への信頼を大きく揺るがす事態になっている。

 高齢者の怒りは大きく分けて二つに向けられている。ひとつは75歳以上を切り離した新医療制度の仕組みへの批判だ。「うば捨ての制度だ」「高齢者に早く死ねということか」という、特別扱いへの心情的な反発がある。

 もうひとつは負担増に対する批判だ。「保険料の負担が増えた」「扶養家族からも保険料を取るのか」と、暮らしを圧迫される人たちから切実な声が上がっている。

 国や地方自治体は高齢者の気持ちを全くつかめなかった。新制度が国会で成立して2年の準備期間があったが、制度の趣旨や保険料などについて分かりやすい説明がなかった。国会で新制度が決まれば、後はどうにでもなる、とタカをくくり、いきなり保険料の天引きに及んだ。当事者である高齢者の気持ちを逆なですれば、制度がうまく回るはずがない。

 世界一の長寿国である日本で、高齢者を「うば捨て」にする政策など論外だ。新制度がそうなっていないかをチェックし、またそうならないよう監視することが必要だ。

 保険料天引きの混乱について舛添要一厚生労働相は15日「一人一人、個人にとって(負担が)どうなるのか、細かく説明することが欠けていた」と述べた。その通りだ。もっと早く一人一人に通知していれば、こんなに混乱はしなかったはずだ。

 高齢化によって増える医療費は、現役と高齢世代が分担し背負っていくしかない。今は、現役から高齢世代への仕送り制度になっているが、やりくりが難しくなってきた。高齢者に保険料負担を求めるのは現役の負担を軽くすることでもある。だが、厚労省はこうした新制度の趣旨を十分に説明しないまま、保険料について「低所得者は負担が軽減され、高所得者は増える傾向にある」と、一般論を繰り返した。

 天引きが始まると、低所得者で負担増となる人が出てきた。従来の国民健康保険制度で市町村が独自に負担軽減措置をとっていたのが廃止され、負担増となる人がいるからだ。これでは「話が違う」と怒るのも当然だ。

 厚労省は保険料が負担増となる高齢者の人数を正確に把握すべきだ。負担増となる高齢者の人数と所得の状況などが詳細に示されなければ、国民は新医療制度の評価ができない。ここまで怒りが全国に広がっているのだから、早く実態を明らかにすべきだ。

毎日新聞 2008年4月16日 東京朝刊

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