政府は北朝鮮に対する日本独自の経済制裁を半年間延長した。すべての北朝鮮船籍の船舶入港や輸入禁止などが柱で、期限切れに伴う三回目の延長措置である。
日本の経済制裁は二〇〇六年十月に北朝鮮が核実験を強行した際、核、拉致問題などの解決に向けた「圧力」として本格的に打ち出された。町村信孝官房長官は、制裁延長の理由について「北朝鮮側がすべての核計画の完全かつ正確な申告をいまだに実施せず、拉致問題でも具体的な対応を取っていないことを勘案した」と説明した。
確かに北朝鮮は六カ国協議の合意に基づく「完全かつ正確な核計画申告」を履行せず、拉致問題でも進展は見られない。政府が引き続き「圧力」が必要と判断したのは妥当だろう。ここで制裁を解除したり緩和すれば、北朝鮮や国際社会に対して誤ったメッセージを送ることになるからだ。
拉致問題は停滞したままだが、核問題に関しては先週、シンガポールで開かれた米朝協議で動きが見られた。北朝鮮の外務省は、米国との協議で「すべての核計画申告」と「米国の政治的補償措置」で見解の一致をみたとした。米国のヒル国務次官補は「進展があったことは間違いない」と言明した。
「政治的補償措置」は、北朝鮮に対する米国のテロ支援国家指定の解除を指すと思われる。今後、北朝鮮は核計画申告で否定してきた高濃縮ウランによる核開発などをめぐり、米国が容認できそうな対応を提示し、米国はテロ支援国家指定の解除に向けた準備に入ることで調整が図られる可能性が出てきた。
だが、北朝鮮は任期切れが迫るブッシュ米大統領のあせりを見越し、取引を優位に進める思惑があるとされる。米国は拉致問題を忘れず、毅然(きぜん)とした姿勢を貫いてもらいたい。あいまいな妥協は禍根を残すだけだ。
中国の動向も気にかかる。六カ国協議の議長国としてまとめ役が期待されるが、北京五輪の成功に向け北朝鮮を刺激しかねない行動は当面取らないのではないかといわれる。
六カ国協議参加国の足並みの乱れは、北朝鮮の思うつぼだろう。参加国はあらためて結束を強め、協議を動かしていく必要がある。これから五月にかけて、福田康夫首相は韓国、ロシア、中国との首脳会談が予定されている。七月には主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)も開催される。首相はこうした機会を利用し、各国との連携強化を図る積極姿勢が重要だ。
相次ぐ家計への圧迫や、食に対する不信などが日々の生活を脅かす。内閣府の「社会意識に関する世論調査」結果から、そんな国民の不安や不満の高まりが浮き彫りにされた。
調査は今年二月、全国の成人一万人を対象に実施され、回答率は約55%だった。日本が悪い方向に進んでいる分野は何かとの質問(複数回答)で最も多かったのは「景気」で43・4%。昨年一月の前回調査に比べ約二倍に跳ね上がった。次いで「物価」の42・3%、「食糧」の40・9%の順だ。ともに前回調査の約三倍という急増ぶりで、一九九八年にこの質問を始めてから最も高い比率となった。
米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題による米国の景気冷え込みなどで日本経済の先行きは不透明だ。所得が伸び悩む中で景気回復の実感も乏しい。原油や穀物の価格高騰も追い打ちをかけ、生活必需品などの値上げが重くのしかかる。相次ぐ食品偽装や中国製ギョーザ中毒事件なども不安をかき立てる状況をうかがわせる。
景気や物価、食糧といえば、国民生活の根幹をなすものだ。悪化していると感じる人が急増したことは、政治が有効な対策や将来へ向けて安心できる明確なメッセージを打ち出せていないからだ。このままでは国の活力にかかわる。不安や不満から消費者の買い控えが強まれば、日本経済にさらなる悪影響を及ぼしかねない。
福田康夫首相は、輸出依存から内需の拡大に重点を置いた力強い景気対策を打ち出すとともに、日本経済の再建に向けた構造改革への意気込みを示すことが必要だ。政局絡みの混迷で政治が機能しない「政治不況」を引き起こすことは、断じて避けなければならない。
(2008年4月15日掲載)