堺市堺区の中核病院の一つ、耳原総合病院(386床)。正面玄関を入ると、たくさんの患者が行き来し、総合受付の女性職員が対応に追われている。会計などの事務職員も忙しそうだ。
だが、彼女たちは正規職員ではなく、派遣職員だ。同病院は04年度から、約20人の職員が担っていた案内や会計、レセプト請求などの業務を外部委託し、年間約6000万円の人件費を削減した。
それでも経営は楽にならない。06年度は7年ぶりに約4800万円の黒字を達成したが、07年度は2月末現在で約1億8000万円の赤字で、通年でも赤字の見込みという。
穴井勉事務長は「今の診療報酬体系では、普通に経営していると赤字になる。外部委託で何とか持っている状態だ」と説明する。
同病院は月平均約660人の入院患者に対応、1日平均約353人の外来患者を診る。救急患者も積極的に受け入れている。その診療報酬などで、月平均約5億1300万円の事業収益がある。
しかし、人件費が月平均3億1000万円と収益の6割に達し、経営を圧迫する。穴井事務長は「医師や看護師を確保するため、人件費は下げられない」と頭を抱える。
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赤字の病院が増えている。日本病院団体協議会の調査(回答2837病院)によると、06年度は病院の43%が赤字で、前年度の37%から上昇。公立病院に限ると、92%(前年度89%)が赤字だ。
背景には国の低医療費政策がある。医療機関の主な収入源である診療報酬は、ほぼ2年ごとに改定されているが、国は物価上昇に見合った引き上げをしてこなかった。
全国保険医団体連合会によると、06年の消費者物価指数は81年比で124・44%に上がった。逆に、診療報酬はこの間、98・35%に落ち込んだ。06年度に赤字の病院が増えたのも、3・16%の大幅なマイナス改定があったためだ。
マイナス改定は02、04、06年度と続き、病院経営に大きく影響してきた。東京都によると、11の都立病院の収支は、マイナス改定時に悪化し、翌年は改善という傾向が続く。都病院経営本部の小室一人財務課長は「経営努力をしても、マイナス改定で吸収されてしまう」とこぼす。
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耳原総合病院は昨年12月25日未明、30分間に3件も救急患者受け入れ要請を受けた。この時間帯の当直医は2人で、最初の2件は対応できたが、3件目は断るしかなかった。実は、3件目の患者は、嘔吐(おうと)などの体調不良を訴えたが、30病院で受け入れを断られた末に死亡した大阪府富田林市の女性(当時89歳)だった。
当直医が多ければ、女性を受け入れることができた。だが、穴井事務長は「今の診療報酬では『3人目』のためにスタッフを増やすと、収支が悪化して病院がつぶれかねない。経営面からは入院患者を増やしてベッドをできるだけ埋める必要があるが、空きがないと救急患者を受け入れられない」と苦しい胸の内を明かす。
低医療費政策のつけは、結局患者に回って来る。=つづく
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毎日新聞 2008年4月16日 東京朝刊