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ミクロのバネで超省エネ回路 NTTが新半導体素子を開発
半導体材料でできた極めて小さい板バネを物理的に振動させ、その位相の違いで「0」と「1」のデジタル信号を表現する素子をNTT物性科学基礎研究所(神奈川県厚木市)が開発し、英科学誌「ネイチャー・ナノテクノロジー」電子版に13日発表した。この素子は現在実用化されている半導体の演算素子よりも消費電力が数百〜数千分の1程度と少なく、開発が進めば超省エネ型のコンピューターや電子機器を実現できる可能性がある。
新しい素子はガリウムヒ素を材料とし、中央部の厚みが毛髪の50分の1程度(約1・4マイクロメートル)となる橋桁状の板バネに成形。両端に電圧をかけると、板バネ部分が1秒間に10万回の周期で弓なりに振動する。
同研究所は電圧のかけ方の工夫により、最初に上へ振れる振動を「0」、下へ振れる振動を「1」と表現し、その状態を保持することに成功した。素子をつなげていけば、電卓やコンピューターのような演算回路を構成できる。
振動の位相でデジタル信号を表す手法は、元東大教授の故・後藤英一氏が大学院生時代の1954年に発明した「パラメトロン」素子と同じ発想だ。当時は旧電電公社などがパラメトロン・コンピューターの開発を競ったが、同時期に量産化が進んだトランジスタに比べ消費電力や発熱量が大きく、演算速度は遅かったため、やがて姿を消した。半世紀を経た今、民営化されたNTTが、パラメトロンの最大の弱点を克服する素子を発明して雪辱した格好だ。
同研究所によると、ナノテクノロジーと呼ばれる原子レベルの物質制御技術で素子を小型化すれば、理論的には消費電力をさらに1万分の1程度に減少させられる可能性もある。スーパーコンピューターやデータセンターといった大規模設備で採用が進めば、消費電力を削減して地球温暖化防止に貢献できそう。携帯電話などの機器では電池の小型軽量化、充電が長期間不要といった恩恵が期待できるという。