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小児科を守れ/4 自分たちで

 

 ◇行政だけに頼らぬ

 兵庫県丹波市の県立柏原(かいばら)病院の小児科医、和久祥三(わくしょうぞう)(41)は、黙って病院を立ち去ることはしたくなかった。和久は地元出身。「辞める」と公言したのは「古里の医療が壊れていくのは忍びない」と考えた末の「SOS」だったのだ。

 「県立柏原病院の小児科を守る会」の署名は、2カ月足らずで5万5000人分に上った。県庁に電話し「知事さんに思いを伝えたい」と訴えた。担当者と何度もやりとりし、07年6月14日、健康局長との面談が決まった。

 「これで県が動いてくれる」。杉浦保子(29)らメンバー6人は署名を携え、車2台で神戸市の県庁に向かった。杉浦は颯太(そうた)(4)を連れていった。「小児科がなくなれば、命にかかわる子どもが丹波にはたくさんいる。その一人として、県庁の人に颯太を見てほしい」と思ったからだ。

 会議室で局長らと向き合った。だが、県幹部は「努力しているが、困っているのは丹波だけではない」と繰り返した。しかも、一般外来が中止されていることなど現場の実情をよく知らなかった。話し合いは2時間に及び、颯太は杉浦の腕の中で寝息を立てた。

 帰りの車は重苦しい空気に包まれた。「きっと知事には届かないんだろうな」。署名を持って行きさえすれば何とかなると考えた甘さを思い知った。

 翌月、「お疲れさま」のランチ会に集まったメンバーは口々に言った。「行政に頼るだけでなく、自分たちでやろう」(敬称略)=つづく

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毎日新聞 2008年4月13日 大阪朝刊

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