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社説:高齢者医療 混乱する新制度 政府・与党の責任は大きい

 75歳以上を対象にした後期高齢者(長寿)医療制度が大混乱している。異常な事態が今、起きていると言っていい。新制度による年金からの保険料天引きが15日から始まるが、その前から「保険証が届かない」「ダイレクトメールと勘違いして捨ててしまった」「保険料の計算のミスがあった」「保険料負担が増えた」など、不満や批判が全国から噴出している。「75歳以上を切り捨てる“うば捨て山”の愚策だ」などの指摘もある。新制度への不信が広がれば、高齢者の新医療制度は危うくなる。

 福田康夫首相は14日になって「十分な説明ができず、混乱させたことを反省している」と述べた。だが、謝れば混乱が収まるというものではない。福田首相は混乱の原因を「説明不足」としたが、本当にそれだけだろうか。むしろ、制度の中身や保険料水準、さらには地方との連携、準備などに問題があったのではないのか。新制度が発足したばかりで言い出しにくいとは思うが、過ちを改めるなら早いほうがいい。肝心なことは、急速な高齢化によって行き詰まりが見えてきた医療制度を、よりよい方向に変えることだ。

 新制度は06年6月の国会で与党の賛成多数で成立した。議論が生煮えのままだったことが、混乱のきっかけになった。その後、昨年の参院選で自民党が敗北、高齢者の反発を恐れた与党は昨年末、新制度の保険料軽減策を急きょ打ち出した。これによって、新制度を現場で運営する都道府県の後期高齢者医療広域連合や自治体関係者の準備が大幅に遅れた。システムの開発が進まず、保険料の減免制度をPRする時間が足りなくなってしまった。混乱の責任は政府・与党にあると指摘せざるを得ない。

 毎日新聞は、政府がまとめた医療改革試案に対して(1)高齢者の負担が重すぎる(2)なぜ65歳以上を前期、後期と分けるのかがわかりにくい。説明が必要(3)高齢者の納得が医療改革の条件となる--などと指摘してきた。しかし、新制度が始まるまでに、これらの問題が解決されたとは言い難い。その上、保険証が届かないなどの不手際が重なったのだから、これで怒らない高齢者はいない。

 福田首相には高齢者を納得させる方策を聞きたかった。反省しても、手を打たなければ混乱は深まるばかりだ。首相の反省を受けて、政府・与党は、どうすれば高齢者に納得してもらえるのか、説明不足をいかに解消するのかについて具体策を示すべきだ。

 野党にも注文がある。新制度の混乱ぶりを政治的に利用すべきではなく、野党にも解決策を示してもらいたい。今こそ、与野党は国会で高齢者医療の改革議論を深める時だ。

毎日新聞 2008年4月15日 東京朝刊

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