B、C型肝炎患者を対象に、ウイルスを駆除するインターフェロン治療費の助成が今月、全国で始まった。しかし、県内の患者は3万人以上とされるのに、県が今年度予算で計上したのは621人分(1億4300万円)のみ。厚労省が全国で「年間10万人」の指標を設け、これを基に県の対象者数を算出したためだ。その背景には▽肝がんは除く▽1患者1年間▽少量長期投与は対象外--など制度上の制限がある。5年に及ぶ闘いで国との和解を勝ち取った薬害C型肝炎訴訟だが、“全員救済”の道は険しい。【近藤希実】
◆副作用の苦しみ
「あなたの血は使えません」。大津市の山崎美子さん(71)=仮名=は92年、献血の血液検査で突然、言い渡された。病院でC型肝炎と診断されて入院し、いったんウイルスは陰性化したが、再び8年後に悪夢が襲った。
定年退職し、旅行や登山を楽しんでいた矢先、おおよそ40以下で肝機能が正常とされる「AST、ALT値」が80以上に上昇。再び始めた治療には、重い副作用が伴った。
全身に湿しんが現れ、鉛筆も持てないほどに。皮膚が乾いてはがれ落ち、自宅の床は真っ白になった。頭髪は半分抜け、毎日続く貧血やうつ、不眠。副作用治療のため、山崎さんは「あらゆる診療科を回った」と話す。
◆抑制治療は対象外
それでもウイルスは根治できず、副作用による舌の痛みと頭痛は残ったまま。今はウイルスを活性化してしまう運動や入浴を30分に制限し、飲み薬で病状の悪化を防いでいる。
一般的に肝炎治療は、週1回の注射「ペグインターフェロン」と内服薬「リバビリン」を48週併用すれば約6割は治るとされる。しかし、山崎さんのように高齢者だと陰性化する確率は3割程度まで下がることも多い。
治療に伴う血小板の減少や副作用を考えると、山崎さんは「根治より、少量を長く投与して、がんや肝硬変への進行を抑える方がいい」と話すが、少量で長期の治療は助成の対象外だ。
◆不十分な助成
対象になっても、治療期間や課税額の制限で、患者が満足する助成を受けられないケースも。栗東市の藤井由紀さん(58)=仮名=は既に48週併用治療を受けたが、ウイルスが再燃。「次は72週まで延長してでも根治したい」と制度発足を待っていたが、1年間(48週)のみと知り、落胆したという。
しかも、世帯の市町村民税課税年額を▽6万5000円未満▽6万5000円~23万5000円▽23万5000円以上--に3区分し、これに応じて月1、3、5万円の自己負担を強いられる。助成は負担額を超えた額だけで、藤井さんは「月8万の負担が5万になるだけ」と訴える。
◆終わらぬ闘い
「思い当たるのは、幼い時の注射の回し打ちか、歯医者か」と藤井さんらが特定できないように、汚染薬剤の投与の立証は難しい。このため、1月に成立した救済法の対象になれない患者にとっては、治療費助成は頼みの綱だ。藤井さんは「血を扱う医療行為を介して感染した『医原病』なのに、収入で差をつけるなんて」と憤る。
訴訟の和解を受け、世間に広がる「解決ムード」。そんな中、先月、草津市であった「滋賀肝臓友の会」の交流会には約70人が参加した。質疑応答で、原告になれなかった年金暮らしの男性患者は思わず声を荒げた。「生きてる人間のことがどうでもええんか!」。終わらない肝炎問題の現実が、ここにある。
毎日新聞 2008年4月12日 地方版