熊谷トレッキング同人
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2007.1.7 八甲田山雪崩埋没事故報告 |
2007.1.24(第2稿)
報告者:宮田幸男 |
ラッセル登行中に、最後尾のメンバー一人が雪崩に遭い埋没。先行していたメンバーによる捜索により救出された記録です。
<参加者>
CL宮田 SL木下 以下A,B,C ほかにゲレンデ組 3名(計8名)
<経過>
1/5(天候:快晴/無風 酸ヶ湯最高気温−1.7℃/最低気温−6.7℃/降水量0mm)
羽生IC(6:00)=黒石IC(12:30)=酸ヶ湯温泉(14:00)=八甲田ロープウェー=ダイレクトコース滑降
・暖冬で東北も記録的な少雪(黒石市街に積雪なし)、買い出しにも上着は要らないほどの暖かさ
・午後2時過ぎに酸ヶ湯着、快晴無風の天気であったため、全員で田茂萢岳からの景色を眺めに八甲田ロープウェー15:20発最終便に乗車
・田茂萢岳山頂の気温0℃、素手でも寒くない。大展望を満喫後、ダイレクトコースを滑降。
1/6(天候:曇り後雨、湿雪/強い東風 最高気温+1.7℃/最低気温−4℃/降水量26mm)
AM 八甲田ロープウェー→田茂萢岳(9:30)→前岳→北面滑降1170mまで→前岳(11:30)→
前岳鞍部からフォレストコースに合流
PM 山麓スキー場
・日本海と関東南岸の2つ玉低気圧が発達しながら東北地方に接近、青森県も気象情報で夕方から大雨と強風の大荒れとなるとして警戒を呼びかけていた。
・午前中は行動可能と判断し、予定どおり銅像コース前半部を滑るため、8:40発第1便に乗車する。強い東風(山頂駅風速19m)のため、低速運転と停車を繰り返す。
・田茂萢岳山頂からは、八甲田主稜線や陸奥湾がはっきり見えるなど視界は良好、気温は−3℃とこの時期としてはかなりの高温。
・前岳鞍部に向かって田茂萢沢1170mまで滑降。ブッシュが多くルートを選びながら滑る。雪質はゲレンデのような締まり雪。沢底でシールを貼り、鞍部から前岳山頂に登る。
・前岳山頂からどこを滑るかであったが、北面急斜面(35度程度)の状態も問題がなかったため、1170mまで滑降する。直前に滑った米軍3名パーティは銅像茶屋に向かった。雪質は締まり雪。
・前岳北面急斜面の登り返しは、シールが効きずらく消耗する。この頃から東風がさらに強くなり、大岳から大きな雪煙が上がっていた。次第に大岳にガスがかかってくる。
・北東面をトラバース気味に滑って鞍部へ。雪質はウィンドクラスト。鞍部からは樹林帯を縫ってフォレストコースに合流する。所々粉雪あり。
・山麓食堂で昼食を取る。すでにロープウェーは強風のため運休。午後は山麓のスキー場滑降とするが、午後1時に小雨が降り出す。すぐに強い雨となる。気温5℃。
・リフト上段では強風とみぞれ混じりのあられ。りフト3回で宿に戻る。
・酸ヶ湯は強い湿雪。
1/7(天候:吹雪(湿雪)/強い西風 最高気温−1.1℃/最低気温−4℃/降水量49mm)
酸ヶ湯→地獄湯ノ沢→1150m付近 ◎雪崩埋没事故発生 『詳細は次項』
1/8(天候:吹雪(湿雪)/強い西風)酸ヶ湯温泉=熊谷
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<事故当日の行動>
パーティ:CL宮田、SL木下、A、B、C (計5名)
・雪崩ビーコンはTRACKER DTS(宮田、A、B)、PIEPS DSP(木下)、国産AB1500(C)
・全員がゾンデ、スコップを所持。
・午前6時には雪はやんでいたが、7時頃から強い吹雪となる。
・出発前に酸ヶ湯フロントに登山計画書を提出。天候が悪いため、行けるところまで行って引き返す、遅くとも午後3〜4時までには下山する旨を伝える。
8:40
・酸ヶ湯温泉発、天候は吹雪で視界は200m程度、ラッセルは脛から膝下程度といつもより浅かったが、非常に重たい湿雪。
・車道を上がった所で高度計を合わすと、昨日より250mも気圧低下していた。
・全員で交代しながらラッセルを行う。ラッセル終了後は飲水など適宜休憩す
るよう指示、列から離れることがあった。
・途中に沢が割れているところがあり、2箇所で慎重に乗っ越す。
・吹雪で視界悪く、帰路の目印のため要所で赤布を4〜5本取り付けた。
11:05頃
・地獄湯の沢右岸の降り口着。ここまで全員まとまっての休憩なし。
・休むには寒くまだ全員元気であったため、沢降り口の雪の状態を確認した後、沢に入り登行を続ける。
・沢底の雪は非常に不安定であったため、沢左岸側斜面をトラバースで登る。
・樹林帯と地獄湯の沢の雪質は明らかに違っていた。沢の表面層は硬く締まり、脛程度しか潜らなかった。ラッセル待機時に、ストックをついて確認していた。
11:25頃
・ラッセル交代する際に、Bに「登行は遅くても12時まで、一昨年の場所(沢が右方向となる1150m付近の平地)で引き返す」旨を伝える。のちにSLにも伝える。
11:45頃
・1150m付近登行中に、沢左岸(右手)斜面から小尾根を挟み二方向からなる面発生表層雪崩が発生。
※二方向の雪崩は、パーティ先頭付近と最後部付近とで同時に発生したと思われる。先頭付近の雪崩は幅10〜15m、高さ10mほどのごく小規模、表面の硬い層が折り重なるように落ちていた。
・ラッセル交代後に休憩していた最後部のCが膝下まで埋まる。
※この時、Cからの「なだれ!」の声を他のメンバーが聞いているが、先頭付近で発生したものの警告と思いこんでしまった。また、小尾根を挟んだ位置関係で目視できない場所(距離は約20m)で雪崩に埋まっていた。
・膝下が埋まった第一波の直後、より規模の大きい第二波の雪崩が続けて発生。足が動かせない状態に横から背丈ほどの雪崩が襲い、そのまま倒されて完全に埋没。雪崩音はまったく聞こえなかった。
※視界不良で定かではないが、幅15m程度、高さは30mはあったと思われる
・先頭付近では、雪崩直後に下山を決定。「シールを剥がすよう」指示する。
・Bが方向転換する際に沢底の穴に落ちてしまい、SLが手を貸す。
・その後、Cが登ってこないことを不審に思い、声を掛けるが反応なし。
・4人で様子を見るために戻る。一番下にいたSLが小尾根を回り込んだ所でデブリを発見し、「埋まってる、なだれ!」と叫ぶ。
11:50頃
・SLが直ちにビーコン捜索に入る。場所を特定(1.2mを表示)する。
・Bがゾンデを差すが確信がない。CLがスコップで掘り出す。SL、B両名もすぐにスコップを持ち加わる。3名で大声を出しながら懸命に掘り下げる。Aは脇から掘り出した雪を掻き出す。
・掘り始めてから1〜2分後に雪面から約30pほどの深さで動いている右手を発見。何よりも気道確保が第一のため顔面方向を必死に掘り続ける。右手と頭部の間でテルモスとそのカバーを発見。
・数分後に頭部を発見する。運良く顔面は上を向いていた。
※頭部は雪面から70〜80pの深さ、埋没から気道確保まで約15分程度は経過していたと思われる。最初はうなり声で意識は朦朧状態であったが、1〜2分後には意識は回復し、会話もできるようになった。
・上半身、下半身の順に掘り出し、最後に両足をスキー板から開放して救出する。外傷、けが、低体温症の症状、パニックを起こすことなく元気であった。
※スキーは雪面から2m近くの深さに埋没していた。雪崩前の雪面と思われる。
・テルモスのお湯を飲ませて、ツェルトをかぶせて体温維持。
・その後、雪に埋まったザックとストック1本を探すが発見できなかった。
・吹雪がさらに強まり、現場での作業は新たな危険も伴うため下山を決定。
12:30頃
・シールを付けたまま、雪崩警戒のため間隔をあけて下山開始。
・Cも自力下山
12:50
・地獄湯の沢右岸の樹林帯に上がる。全員で小休止(約5分間)。
13:40
・酸ヶ湯温泉着
【地獄湯ノ沢周辺の地形図】 ○……雪崩発生地点

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<雪崩発生地点>
・雪崩は地獄湯の沢1150m付近、登る方向からみると沢が右にカーブする直前で、左岸側から小尾根がせり出し沢が狭まる場所で発生した。
・雪崩れ発生面は斜度35〜40度で、斜面の方向はほぼ西北西面と西面、斜度が緩むまでは30〜40mの標高差があった。
・ふたつの雪崩とも斜面には樹木がなかった。先頭付近の雪崩破断面には、熊笹が数本垂れていた。最後部の雪崩れはより高い位置から扇形に落ちたように思われる。春には小規模雪崩が起きていた場所かもしれない。
 
<当日までの気象条件>
・年末(12/30まで)の寒気以降は大きな移動性高気圧に覆われて、八甲田山もこの時期としては異常な高温が続いていた。前日の田茂萢岳山頂も午前9時で気温−3℃(前日の酸ヶ湯最高気温は+1.4℃)、午後からは山麓スキー場では雨、みぞれ、あられが降っていた。酸ヶ湯では湿雪(ぼたん雪)が降っていた。
・当日は、日本海、関東南岸を進んだ2つ玉低気圧が東北南部で猛烈に発達(24時間で40hpも低下)して、日本付近は強い冬型の気圧配置となっていた。寒気が流入していた西日本でも降雪、長野県から福島県会津と中通りには大雪警報が発令される。ただし、低気圧の中心に近い東北北部は、低気圧に巻き込む西風は強かったものの寒気の流入が遅れて、まだ前日の暖気が残っていたため例年に比べて気温はかなり高かった。青森市街は日中は大雨の予報で、寒気による降雪は夜からであった。酸ヶ湯の前日午後3時から朝まで60pの積雪。
・酸ヶ湯の当日午前9時の気温−2.5度、西北西の風3m、降水量2.5mm、積雪180p
・ 〃 午後0時の気温−1.8度、西北西の風6m、降水量2mm、積雪183p
・地獄沢の気温は手元の温度計で−2〜3℃、強い吹雪で、西風が斜面を吹き上がっていた。
<事故当時の雪質と判断>
・年末(12/30まで)の寒気以降、前日まで移動性高気圧に覆われて高温が続いていたため、古い雪の表面は日射と高温による融解で「濡れザラメ雪」となり、その層上に前日夕方から、暖気を巻き込んだ低気圧による春のような重い湿雪(降り始めはあられの可能性)が、60p以上という多量の雪(上載積雪)となり積もっていた。なお、濡れザラメ雪上に0℃程の新雪が一気に積もったため、その新雪が断熱性を持ち、結合の弱い濡れザラメの状態が保持されていたと考えられる。
・経過で述べたとおり、樹林帯と地獄湯の沢の雪質は明らかに違っていた。沢の表面層は硬く締まり、脛程度しか潜らなかった。ストックを差しても表面層が硬く、内部も粉雪には程遠い締まった雪であった。地獄湯ノ沢は西面に開けた沢であるため、表面は強い西風による風成雪の層(ウィンドスラブ)が形成されていたと思われる。
・このことにより地獄沢の斜面は、表面層は内部より密度の高い(重い)状態となり、弱層となった古い層に積もった上載積雪は、非常に不安定なスラブ(落ちそうで落ちない層)を形成されていたと思われる。
<雪崩発生の原因、二方向雪崩の規模>
・重い湿雪が60p以上も積もり(当時も降り続けていた)、非常に不安定となっていた急斜面の末端を我々がトラバースし、雪崩を誘発した人為的面発生表層雪崩の可能性が高い。
・埋没地点を4名が通過した直後に先頭付近と最後部の二方向の雪崩がほぼ同時に発生した。破断面は小尾根をはさんで、かなり近い位置であった。
・規模については、最初の二方向の雪崩れ(第1波)は同程度の規模であったと推察される。
Cは足首が埋まったくらいで、先頭付近も硬い風成雪の層(ウィンドスラブ)のみが雪崩れていた。
・第2波が発生した要因としては、斜面の大きさ、樹林の生え方、斜面の向きなどの違いと、斜面下部の雪が流されてなお一層不安定となり、その上部に残されていたスラブが内部の柔らかな雪を巻き込みながら一気に雪崩れたと思われる。(背丈ほどの高さで襲われたこと、埋没者の回りには硬い雪層は見られなかったことから)
<雪崩発生時の捜索者の行動>
・4名は出来る限りの最善を尽くしたが、全員が雪崩捜索は初めての経験であった。
・SLが先頭で、B、CL、Aの順で戻り始めた。
・SLがデブリを発見、すぐにビーコン捜索開始した。
・Bがゾンデ、CLがスコップを持って埋没地点へ進む。SLが埋没地点を特定(表示1.2m)する。Aもすぐに合流する。
・3名で埋没者がいると思われる場所を掘り出す。Aは脇から掘った雪を掻き出す。
※詳細は後述
<埋没者Cの行動>
・埋まった直後は叫んでいた。
・手以外ははがいじめ状態で身動きができず、右手の雪が薄いと感じ、指が雪面に出ないか動かし続けていた。
・下半身は重圧を感じ、寒さは感じないが息苦しい。次第に呼吸が困難になっていく。
・掘り出されて気がつくまで、捜索者の声は聞こえていない。
・両膝の上に1箇所づつ、ゾンデが当たったのではないかと思われる小さなあざがついていた。
※詳細は後述
<ケガ、低体温症などがなかった原因>
・雪崩れた表層が浅かった。
・第1波で足を固定され、第2波でそのまま横に倒された。雪は軟雪でショックはなく、流されることがなかった。
・当日は−2〜3℃でこの時期としては異常な高温であり、雪温自体も高かったと想定される。
・ザックを降ろしていた時に埋没したため、重しがなかったことも幸いした。
・顔面が運良く上を向いていた。
・埋没してから約15分間は経過していた。あと数分で事態は一変していたと思われる。
<当日の行動及び雪崩埋没事故に対する反省、検証>
《入山前》
・2000年から毎年、正月明けに地獄湯ノ沢ルートをトレースしていたため、リーダーを含めほとんどのメンバーが、「慣れ」からあらゆる面での警戒心が薄らいでいた。
・今冬の高温傾向のなかの大量降雪中に行動した。
・大荒れの天候の中で山に向かうことに不安な気持ちは持っていたメンバーがいた。出発前に打ち合わせを持ち、リーダーの考え方を説明するとともにメンバーの意見を聞く必要があった。
《行動中》
・これまで地獄湯ノ沢で雪崩の跡を見たことがなく、まったく雪崩のケアをしていなかった。地獄沢に入ると柔らかい新雪の上に7〜8cm位のやや固い雪の層(ウィンドスラブ)が乗っていることに気づいていたが、この知見から雪崩の危険について察知できなかった。もっと雪崩リスクに敏感になっていれば避けられたかもしれない。あるいは当日の気温、天候、大量の湿雪から考慮すれば、地獄湯の沢に入ることはあってはならなかった。
・沢に降りるなど状況が変わる場面では、全員が集まってリスクマネージメントを行うべきであった。
・ラッセル交代する場所をメンバーに指示していなかった(足場が安定、急斜面の下は避けるなど)。雪崩が起こったとき、Cは休憩中で他のメンバーから少し離れていた。このラッセル特有の進み方(先頭が交代すると最後尾に回り、休息を取るというシステム)そのものは昔からあり合理的だと思われるが、今回のような雪崩のリスクがある場面では適当でなかった。
・「なだれ」の声を他のメンバーが聞いていたのにすぐに存在を確認せず、絶えずメンバー全員の把握をしていなかった。また、吹雪で視界も悪かった沢登行時は、適度な距離を保ち、離れるべきではなかった。
《雪崩発生後》
・埋没に気づいてからの対応は概ね適当であったと思われる。しかし、今回は支障がなかったが、2名がビーコンの捜索モードへの切り替えがされていなかった事は反省すべきである。
・雪を掘る作業は2〜3名が適当と思われる。もっとも力のある者がこれに当たり、他のメンバーはそれをサポートする(掘った雪をどける、救出後に必要な準備をする、二次雪崩を警戒するなど)のが最も効率的であると思われる。
<今後の対策と改善すべき点>
・雪山に入山する前と休止時などに、その日の雪崩リスクについてわかりやすい形で評価を行い、その内容をメンバー全員が共有する。
・迅速なビーコン操作と救出の技術をパーティ全体で向上させる努力をする。
(複数埋没時の捜索訓練、埋没者を掘り出すためのゾンデ差し、スコップ掘りなどの役割分担)
・全員が目視できる範囲で行動する。吹雪などで目視が困難な場合はホイッスルで合図しあう。
・人数が多い時など最後尾のメンバーの動向を把握する工夫。(トランシーバーの活用など)
・危険が予想される場所でラッセル交代を行う場合は、一息入れる場所をリーダーもしくはサブリーダーがチェックを入れる。
…メンバーの行動…
[CL]
@ シールを外すよう指示を出したが、Bが穴に落ちたのを見て少し不安を感じていた。
A Cは穴に落ちたのかもと思っていた。見えない所からSLの「雪崩」の声に、「まさか」と思い、一瞬真っ白になった。
B 「受信モードに切り換えて」を聞き、慌ててオーバーグローブのままサーチボタンを押した。2.6mの表示を憶えていたが、あとでBの電波を拾っていたことを聞いた。
C 尾根を回り込むとSLがビーコンが雪面に当てているのが見えた。「ここだ」の声を聞き、掘るのが一番と思いスコップだけをもってスキーを履いたまま近くまで進んだ。
D 掘り始めると、慌てていたためネジ止めが完全でなく、シャフトがはずれてしまった。
E 手が動いていたのを見て「生きてる」と叫び、時々、手を握りながら「がんばれ」と呼び掛けた。
F 雪が柔らかく、手が見えたあとは、逆にシャフトがじゃまになったのでスコップのみで掘った。すぐにテルモスを見つけたとき(頭部より左側上方)、ザックの中から飛び出たものと思っていた。のちにストック1本(右手近く)も発見した。
G 右手のひじが出てきて、掘っていた顔の位置が間違いと気づき、みんなに知らせた。
H ヤッケのフードが見えてきたら、手で周りの雪を掻き分けた。
I 顔が出た時はホッとしたが、意識は朦朧としていた。意識が戻ったあとに、テルモスのお湯を飲まそうとした。Cは1回目は要らないと断ったが2回目は飲んだ。
J この頃にSLが「ツェルトを出して」と言ったが、自分の頭に中にはなかった。平常心ではなかった。捜索者が気づいたことを言い合うことが必要だと思う。上半身が出たあとは、自分も少し落ち着いてきた。
K Cが「足が痛い」と言ったのでケガかと心配したが、「スコップが直接当たって痛い、足は大丈夫」と聞いて安心した。
L 救出作業をしながら時々上方を見上げて、新たな雪崩が起きないか、地形がどうなっているのか確認していたが、どんどん自分自身が深い場所になっていき難しくなっていった。
[SL]
@ 下山を決定しシールを外すことになったが、Cが上がってこないため様子を見に行くことにした。この時点で、何らかのトラブルが有ったかもしれないという認識はわずかながら有ったが、おそらく上で起こった雪崩を見て下で様子を見ているのではないかと考えていた。
A 少し下ると登ってきた沢が見渡せたが人影は無かった。ここで雪崩に巻き込まれた事に気づいた。「埋まってる、なだれ!」と他のメンバーに知らせる。左岸から流れてきたデブリを確認した。
B デブリに近づきながらビーコンを取り出し、捜索モードに切り替えた。操作がしにくいのでオーバーグローブは外し、ザックとストックは置いた。Bが追いついてきたので、ゾンデとスコップを用意するように要請した。
C 捜索を始めた時点ですぐに埋没者の信号をキャッチした。表示された距離は5メートル前後であったと思う。電波誘導法を行いながらデブリの上を進むと、距離は約2メートルまで縮まった。さらに進むと距離は大きくなったので、最短を表示した地点まで引き返した。そこで十字法を行い埋没地点の絞り込みを行った。最短で1.2メートルを表示した。埋没深度を考えると、地点の同定はほぼ間違いないと思われた。ビーコン捜索を開始してから1分半〜2分が経過していたと思われる。
D 他のメンバーに埋没地点を知らせる。Bがゾンデ捜索を行うが、その結果については私の耳には入らなかった。他のメンバーが掘り始めたので、私はザックの所に戻り自分のスコップを用意した。すぐに雪を掘る作業に加わった。
E 時間の経過から安否が心配されたが、最初に現れた手が動くのを見て安堵した。腕の崖側を頭と考えて掘ったがなかなか現れず、CLの指摘で谷側を掘ったところ顔が現れた。顔が雪面に出ると埋没者は意識があるもののもうろう状態であった。呼吸が速く過換気状態であったが、これは低酸素・高二酸化炭素血症による生理的なものであったと思われる。
1〜2分程度で意識ははっきりしてきたようであった。
[A]
@ 事故当時のオーダーは、B、CL、SL、A、Cの順であった。Cはテルモスのお湯を飲み、パンを食べていた。
A Cを横目で追い抜いて例の小尾根回り込みラッセル集団に追いついた時、Cの「なだれ!」との叫びと同時にBの少し上で小さな「雪崩」が発生した。そのため「この叫び」はCの警告と判断した。デブリの上に出たら意外と幅があった。
B すぐに下山を決めた直後CLが「Cはどうした!」と言い、直ぐに探しに行った。その後をCLが行き、その後B、Aの順で戻った。
C 小尾根を回り込んだ時、Cが雪崩で埋まったことが分かった。すでにSLがビーコンでさがしていた。私が現場に着く前に埋没場所をSLが確認していたのでビーコンをサーチモードにしなかった。私は直ぐにスコップを出し、シャフトをつけた(シャフトをのばすのに少しもたもたした)。掘り出しに直ぐ参加したが、SLの指示に従い掘り出した雪の除雪の方にまわった。
D Cの掘り出しがほぼ進んだ段階で、CLの指示によりツエルトとテルモスを取りに自分のザックに坪足で向かったが、デブリをすぎると足が深くもぐったのでスキーを着けてザックの所に戻り、ツエルトとテルモスを持って行き、掘り出されたCにツエルトをかけてやった。Cはあまり冷えていなかったようであった。
E ザックとストック1本を15分〜20分位ゾンデで探したが、発見できなかった。はじめ私がCと共に下山を開始し、他のメンバー引き続き探そうと言う方針であったが、吹雪が激しくなったため危険を感じ、ザックは諦め、全員シールをつけたまま下山を開始した。地獄沢の下降は特に危険を感じなかったが、トレースを忠実に戻った。沢から上がった時は安心した。
[B]
@ 最後尾にいるはずのCがなかなか姿を見せないので不安になって少し降りると、SLがデブリを発見する。Cの埋没を確信する。
A SLの要請を受けザックからスコップとゾンデを取りだし、ゾンデを組み立てる。スコップはシャフトをつけた状態でザック背面につけていた。ゾンデは右手のグローブをはずして袋から取りだし、斜面の下に投げる感じに伸ばしてドローコードを引いてセットした。デブリの手前(沢の中では上流)5mほどのところにザックをおろして準備したが、この時点でビーコンを捜索モードにすることをわすれてしまっていた。
捜索中のSLから5mほどの距離があり、SLのビーコンは一番強い(近い)電波を選ぶ機能があったので捜索の邪魔になることはなかったようだ。
B ザックとストックはその場に置き、右手のグローブをつけて、ゾンデとスコップを持ってスキーを履いたままSLのところに向かう。SLが十字法で特定した場所にゾンデを挿す。はじめに感触があったが、2カ所目、3カ所目は感触がないように感じたので、「掘ろう」と言ってスキーを脱ぎ、スコップに持ちかえて掘り始める。雪は硬くはなかった。大声でCの名前を呼びながら掘った。
C 20〜30cm掘ったところで手がでて動いているのがみえた。顔を出すのが第一と考えて掘った。ひじの角度から沢の中心側に顔があることがわかり、幸い上向きに埋まっていたCの顔をCLが掘り出すことができた。私は斜面側を掘っていたので足を掘り出すために掘り続けた。次第に意識がはっきりしてきたCにスコップが右足に当たって痛いと言われ、ていねいに掘るようにした。少し安心した。スキーも流れ止めも外れていなかったのでそれらを掘り出すには少なくとも1.5mくらいは掘り下げた。
D 体全体を掘り出し、スキーも取り出した後、Cの右のオーバー手袋が紛失していたので、ザックのところに戻り、予備のオーバー手袋をだしてCに貸した。さらにザックと片方のストックを探して掘り続けたが、見つからなかった。
E 雪もはげしくなり、この場所にいるのは危険と判断して5人一緒に下山することにした。
[C(埋没者)]
@ ラッセルを終え、それまで水分補給だったのを空腹を感じ、まとまった休憩はとらないと言われたこともあり、スキーを履いたままザックをおろし立ったままで菓子パン2個入りのうち1個とテルモスのお湯2口を取る。4人が少し間を開けて脇を通りすぎていく。
A 前方4人の姿が遠ざかっていくのが吹雪で見えなくなっていくことに不安を感じ(5分以内の休憩だったと思う)、いそがなくてはとテルモスをしまおうとした時、膝上まで右側から流れるような雪がくる。「なだれ」と声を出し、右斜面を見ると頭上から雪のかたまりが覆いかぶさるようにくる。体全身に衝撃を受け、倒される。
B 雪が上にのり、腕を広げ両足を伸ばした状態で密閉された感じ、流されてはいない。ただ上に雪が少ないか、軽い雪があるだけなのか、空間を作ることができないか考えたが、手以外ははがいじめ状態で身動きができず、無駄なことに気づく。下半身は重圧を感じる、寒さは感じないが息苦しい。酸素の少ないところでは複式呼吸が楽ではないかと試すができず、次第に呼吸が困難になっていく。
C 気がついたとき(それまではスコップの音も、ゾンデ、他のメンバーの声はまったく聞こえていなかった)、顔の前が軽く、少し明るくなってきた。自分の呼吸が激しいのに気づく。他のメンバーの声が少し聞こえてきた。
後に、両膝の上1箇所づつ小さなあざがついていた。これはゾンデが当たったのではないかと思われる。
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