minimamoralia

2008-02-11

うたごえよおこれ 00:38


まず夢だ

夢の暴力がわれわれを鍛える*1

 「殺すな」というメッセージがある。おそらくわたしたちが授かり、そして投げかけるなかで、もっとも原則的なメッセージのひとつだろう。しかし、わたしたちは殺す。自分の手を汚すにせよ、だれかほかの人の手をわずらわせるにせよ。わたしは、日々、殺す、なにかを、だれかを。ことによってはあなたやわたしすらを。それは、この「殺すな」というメッセージのなかに、「われわれの味方を殺すな」というサブメッセージが含まれているからなのだろうか。「われわれの味方を殺すものは殺す」。たぶん、わたしは「殺すな」というメッセージをこのように読み変えているのだ。だれかに強いられてなのか、あるいはみずから進んでなのかはわからないけれど。

 犬が殺された。殺したのはたぶんわたしだ。たぶんわたしは犬はわたしの敵だから殺したのだ。

ここにおまえがいるのは、おまえが犬だからだ。檻はおまえのような犬のためにあるのだ*2

 アブドゥラ・アルノアイミはグアンタナモで犬と呼ばれた。そしてそのまま繋がれたまま、たぶん、死んだ。もしかしたらまだ生きてはいるかもしれないが、たぶん、死んだ。アブドゥラはたぶんテロリストで、たぶんわたしたちの敵だから殺された。夢のように青いカリブの海と空からぶ厚い壁と屋根一枚をへだてて、バーレーン生まれのアブドゥラは殺された。なぜ? かれがわたしたちの平和と安全の敵だから、たぶん。かれがいつわたしたちを殺した? たぶん、いつか、かれがわたしたちを殺すから。

 「殺すな」。このメッセージを貫徹するためには、殺すしかないのだ、たぶん。

アフガニスタンで捕えられたタリバーンの兵士たちは、ジュネーブ条約にもとづく「捕虜」(POW)についての規定を享受できないだけではなく、アメリカの法律にもとづいたいかなる犯罪容疑者としての取り扱いも受けることはない。囚人でもなければ被告人でもなく、たんなる拘留者(detainess)であるにすぎない彼らは、純然たる事実的支配の対象であり、法律と裁判のよる管理からまったく引き剥がされているため、期限の点のみならず、その本性自体に関しても、無限定な拘留の対象なのである。これと唯一比較が可能であるのは、ナチスの強制収容所(ラーガー)においてユダヤ人の置かれていた法的状況である。*3

 グアンタナモの夢はただの悪夢なのだろうか。いや、そうではない。グアンタナモはあらゆるところにあり、あった。アブグレイヴに、サンチアゴに、ガザに、ラマラに、フォーサムに、蘇家屯に、ハンティ・マンスートクに、東京に。敵のあらわれるところにグアンタナモはいつもある。それは、たぶん、わたしが(わたしたちが)、敵をつくりだしていくことでしか、わたしであることができないから。わたしは敵のなかにもっとも見たくないわたし自身、でなければ、もっともそうでありたかったわたし自身を見るから。で、その狂った自画像がわたしの夢なのか?

グアンタナモ

われわれの夢のかけら*4

 わたしは友に呼びかける。「殺すな」と。そのとき、わたしは、いっさいの保留なしで、その「殺すな」ということばが受け入れられることをただ願う。それがわたしの夢だ。友はわたしに呼びかける。「殺すな」と。そのとき、わたしは、いっさいの保留なしで、その「殺すな」ということばを受け入れたいとただ願う。それがわたしの夢だ。この、何の保留もない、最小限の倫理を、あらゆる友と、ただ受け入れあい、それとともに生きていきたいと願う。それがわたしの夢だ。

 そのとき、はじめて、「殺すな」というメッセージから「殺せ」という意味が消えていくのかもしれない。しかし、どうやってわたしはわたしの夢を生きる?

あることはただあることそれだけ

赤ん坊と母の間のように

そんなにもひとつの燐光の明りで

きらめいて隠れてしまうのを

私は見た


今 私は夢を受け入れる

あることそれだけではなく

私は夢見る

昨日は

今日ではなく

今日は

明日ではなく

ただ私は明日を夢見る*5

 高銀は殺されるところだった。「殺すな」と叫び、「殺すな」と叫んだひとを守ろうとしたために殺されるところだった。しかし、かれは殺されなかった。そして「あることそれだけでなく 私は夢見る」。いま、ここにあるもの、ここにいるわたしだけではない生を生きること。それがだれであるかもわからないだれかと、それがいつであるかもわからないいつかを生きること。それが明日なのだ。

かけら


きみらをわれわれにつないでくれ

女中が絶望的に破片をつなぐように

きみらをわれわれにつなぎあわせてくれ

電報のように無邪気に厚かましく

きみらをわれわれにくれ

遺言によって

疵だらけのクローム鉄鉱のように*6

 明日、わたしは、きみらとつなぎあわさろう。無邪気に厚かましく。そのときにはなにか歌があるといいな。もしかしたら敵でもあるかもしれないきみらとつながるためには、やっぱり歌が必要だ。そして、わたしときみらとかれらの声が、違いはそのままにして、ひとつになればいい。歌があれば、わたしは、あなたを殺すことはないだろう、たぶん。だって、ひとつになったひとびとはけっして負けることなどないのだから。


D

EZLN

*1:「グアンタナモ」岩田宏、『岩田宏詩集』思潮社、p64

*2:『グアンタナモ収容所で何が起きているのか』アムネスティ・インターナショナル編、合同出版、p78

*3:ジョルジョ・アガンベン『例外状態』、上村忠男、中村勝己訳、未來社、p12

*4:岩田、p68

*5:「私の略歴」高銀、『高銀詩選集 いま、君に詩が来たのか』金應教編、藤原書店、p115-116

*6:岩田、p68-69

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