国際金融市場の混乱は想定よりも長引き、世界経済の見通しは悪化している。ワシントンで開かれた先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が発表した声明は、厳しい局面を認めた。G7各国は金融市場の安定と持続的な経済成長に向け、足並みをそろえて対応する姿勢を示したが、不安を解消する即効性のある対策は乏しかった。現在の難局を乗り切れるかどうか、試練が続こう。
米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)問題が深刻化し、世界の金融市場の混乱が続く。今年二月の東京でのG7声明は「世界はより不確実な環境に直面している」との認識を示したが、世界経済の基礎的諸条件は「引き続き強固」とみていた。
今回のG7声明は、金融市場の混乱と世界経済の先行きに懸念を強めた。「インフレ圧力により、景気見通しの下方リスクが残る」と警戒する。成長の続く新興国は先進国の経済悪化の影響が少ないともみられていたが、免れなくなっているとの認識が強まったといえよう。
各国は困難な局面に対応するため「緊密に協調する」とし、連携の重要性を強調した。ドル安が続く為替問題では、声明は「二月のG7以降、主要通貨の急激な変動があり、経済と金融の安定に与える影響を懸念」と明記した。大規模なドル売りが続くことに警戒感を示したものだ。G7が声明でドルなど主要通貨の変動に言及したのは、二〇〇〇年九月以来七年半ぶりとされる。協調介入など具体策には触れていないが、ドル売り加速のけん制効果はあろう。
市場安定化策では、G7の諮問機関である日米欧の金融監督当局でつくる「金融安定化フォーラム」の最終報告を受け、各国は国際的に活動する大手銀行や有力証券会社への監視を強めることで一致した。年内に各国当局が共同で監視グループを設置することになった。金融機関が本拠を置く国による単独の監視だけでは限界があるだけに、共同監視の枠組みづくりをスタートさせたことは市場安定化に向け一歩前進であろう。
だが、共同監視の効果に即効性は乏しく、市場の不安解消につながらないだろう。金融危機の恐れもあるだけに、欧米各国は公的な緊急支援策など踏み込んだ対策を考えておかなくてはなるまい。
就任したばかりで初めて参加した日銀の白川方明総裁は無難に国際舞台へのデビューを果たしたが、市場の混乱解消へ向けて各国との協調が早速試されることになろう。
二〇〇一年に静岡県沖上空で起きた日航機同士のニアミス事故で、便名を呼び間違えて誘導を誤り、乗客五十七人にけがをさせたとして訓練中の管制官と指導していた管制官が業務上過失傷害罪に問われた裁判の控訴審判決で、東京高裁が一審の無罪判決を破棄し、二人に逆転有罪を言い渡した。
訓練中の管制官が相手機に出すべき降下の指示を誤って事故機に出し、同機は航空機衝突防止装置(TCAS)の指示に反して降下した。相手機はTCASの降下指示に従い、事故機が衝突回避のためさらに急降下した結果、けが人多数が出た。
呼び間違いが事故に直接つながったかどうかが争点で、一審はTCASの指示への対応など複合的な要因で事故が起きたとして因果関係を否定した。しかし、高裁は呼び間違いを初歩的な誤りと認め、「極めて危険な指示」だったと管制官の責任を明確に認定した。
管制官にとって厳しい判決であり、刑事罰は正確な事故原因の究明や対策の妨げになるといった声が出ている。航空事故では責任追及より再発防止につながる原因究明を優先するのが世界の流れで、米国には運輸安全委員会(NTSB)の調査が連邦捜査局(FBI)の捜査に優先する決まりがある。
今回の判決を生かす道は第一にミスを出さない体制をつくることだ。ますます進む空の過密化により負担が増す管制官の増員などを急ぐ必要がある。
一方で、たとえ人間がミスをしても事故につながらない方策を講じることが肝心だ。今回の事故後、TCASと管制官で指示が異なった場合にはTCASを優先するという国際ルールができたのはその一例といえる。管制官を罰して終わりにするわけにはいかない。
(2008年4月13日掲載)