完成の見通しが立たない国営「八ッ場(やんば)ダム」(群馬県長野原町)で、道路特定財源を原資とする「道路整備特別会計」(道路特会)から07年度までに、水没予定地の付け替え道路建設に約170億円が支出されていることが分かった。この資金は、公表されているダム総事業費には含まれていない。肝心のダムが姿を見せないまま、付け替え道路は既に約5割が完成しており、潤沢な道路特会による周辺整備だけが進む奇妙な状況が進んでいる。
八ッ場ダム建設費は「治水特別会計」(治水特会)からの補助金。国土交通省八ッ場ダム工事事務所によると、付け替え道路の工事は95年に始まり、治水特会から約430億円を支出。一方、道路特会からの投入は約170億円に上っている。
工事の対象は国道145号のほか県道、町道も含まれ、ダムが完成すると水没する国道145号は現状の2車線から4車線の「八ッ場バイパス」に生まれ変わる。昨年10月時点の進ちょく率は国道51%、県道は52%。完成までに、治水特会と道路特会から少なくとも約1000億円が付け替え道路に投入される見込みという。
しかし、公表されている八ッ場ダムの総事業費約4600億円は治水特会分のみで、道路特会からのものは含まれていない。道路特会からの支出について同事務所は「水没地から移転する住民の生活再建が第一と考えており、移転先となる代替地を整備しなければならない。代替地には当然、道路が必要」と説明する。
一方、肝心の代替地の整備は遅れている。分譲は昨年6月に始まったばかりで、全体の2割程度にとどまる。このため、ダム本体の着工のめどさえ立っていない。86年の基本計画では00年度とされた完成年度は2回の延期で、現在は15年度にずれ込んでいる。
ダム建設の見直しを求める市民グループ「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」の嶋津暉之(てるゆき)代表は「ダム見直しの声がある中、不要となりかねない道路を造ろうとしている。予算を消化するために、ダムに便乗しただけではないか」と批判している。【伊澤拓也】
治水、利水を兼ねた多目的ダムとして1952年、群馬県長野原町の利根川水系吾妻川中流に計画。半世紀にわたる反対運動の末、01年に国と水没地区住民が土地の補償基準で合意したが、代替地整備が進まず、住民の転居などで移転希望世帯は当初の3分の1の134世帯に減少。規模は総貯水量1億750万立方メートル。総事業費は当初の2110億円から4600億円に増額した。
毎日新聞 2008年4月12日 15時00分(最終更新 4月12日 16時43分)