富山県立大学(射水市)は、かつて農業用動力として普及した「らせん水車」を使い、小水力発電システムを開発中だ。地元で誕生した、らせん水車は、こう配の低い、緩やかな農業用水の発電に向く。発電効率をさらに高め、蓄電利用などの課題を克服し、1、2年後の実用化を目指す。
らせん水車は、鉄や木の軸の周りに鉄板をらせん状に張り合わせて造った水車。県内で1920年ごろに発明された。小型で持ち運びができ、水田脇の農業用水に取り付けて、40年代までは脱穀作業や精米、わら加工などの農業動力源となった。全国に普及し、ピーク時には2万台程度が利用されたが、農村電化の動きとともに衰退した。
同大学自然エネルギー農業利用研究会は、らせん水車が傾斜の緩やかな扇状地の富山平野の農業用水向きに造られたことに注目。中心メンバーである短期大学部の瀧本裕士准教授は「落差1メートルでも毎秒0.2立方メートルの水量があれば、理論上は2キロワットの出力が得られる」とみる。
しかし、水が水車の脇を抜けるなどエネルギーロスがある。普通の水車と比べ効率はいいが、動力変換効率は40〜50%程度。動力特性も多くが未解明のため、同研究会は「低落差、低流量でいかに効率良く水車を回転させるか」をテーマに研究する。羽根にくぼみを付けて水の圧力を受けやすくするなどの改良を加え、水流との角度や水路条件などを調べている。
また、らせん水車は低速回転なので、既存の発電機を使う場合には増速機が必要だ。発電効率のアップには、増速機の要らない発電機の開発が欠かせない。家庭で安定的な電気使用のためには、蓄電装置も要る。
瀧本准教授は「電機メーカーとも協力して、2008年度中には発電機も含めて100万円以内で購入できる発電システムを開発する計画だ。最終的には80%の効率を確保したい」という。水力発電だけでなく、一般動力源にも使える併用型のシステム開発を目指す。
南砺市高屋地区の「螺旋(らせん)水車の館」には、今もらせん水車が残る。発電施設を常設し、同大学も小水力発電の実験に使う。水車は直径90センチ、長さ160センチで、羽根は4枚。こう配は20度。実験ではピーク時で1キロワットの発電に成功したが、通常は数百ワットの発電にとどまる。
高屋螺旋水車保存会代表の細川修さん(68)は、「40年代までは各農家に1台のらせん水車があった。懐かしく、あちらこちらに復活すればうれしい」と目を細める。「1戸の家での利用を考えると、1キロワットの出力は欲しい」と要望する。
全国の水車に詳しく、同大学の研究に協力する東京農工大学大学院の里深文彦教授は「産業発展を示す遺構などを研究する産業考古学の視点からも、らせん水車を復活させる水力発電への利用は貴重な試みだ」と注目する。