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■■ Japan On the Globe(436)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■ The Globe Now: 中国の「密の罠」 〜 上海領事・自殺事件 「自分はどうしても国を売ることはできない」 とA領事は自殺した。 ■転送歓迎■ H18.03.12 ■ 33,898 Copies ■ 1,981,853 Views■ ■1.「A君は卑劣な脅迫によって、死に追い込まれた」■ これ以上のことをすると国を売らなければならない。 ・・・自分はどうしても国を売ることはできない。 こんな悲痛な遺書を残して、上海の日本領事館でA領事が首 をつって死んだのは、平成16(2004)年5月6日の事だった。 この遺書を読んだ杉本総領事は翌日、館員全員を集めて、涙な がらにこう語った。「A君は卑劣な脅迫によって、死に追い込 まれた」[1] Aさんは国鉄に勤めていたが、分割民営化に伴い、外務省で 再雇用された。アンカレッジやロシアで勤務した後、本省を経 て、平成14(2002)年3月に上海総領事館に単身赴任した。 着任後数ヶ月して、同僚に連れられて、上海市内の日本人目 当てのカラオケ「かぐや姫」に行った。そこで一人のホステス と親しくなった。 平成15(2003)年6月、そのホステスが「私を助けて。私を 助けると思って、私の『友人』に会って、、、」と必死に懇願 した。ただならぬものを感じたAさんは、懇願に応じて、『友 人』に会った。その一人が「唐」という中国情報機関のエージェ ントだった。彼らは日本人と親しくしているホステスたちを売 春の罪で摘発し、「客の名前を言え。でなければ辺境に送って、 強制労働させる」と恫喝したのである。 彼らはA領事の名前を聞いて、これだとばかり狙いを定め、 そのホステスをさらに脅して、Aさんに紹介させたのである。 ■2.「我々は一生の『友人』だからな」■ 唐らははじめのうちは極めて紳士的にAさんに接した。おそ らく「領事館の要員表が手に入らないだろうか」といった、当 たり障りのない情報を求めたのだろう。領事館の現地人スタッ フは、みな中国政府から派遣されており、この程度の情報は筒 抜けになっているのだが、まずは当たり障りのない情報から聞 き出して、徐々に機密性の高い情報に迫っていくというのが、 彼らの常套手段である。 Aさんは唐とこれ以上つきあっているのは、まずいと思った のだろう。平成16(2004)年4月に本省人事課に転属願いを出 し、すぐにロシア・サハリン州の在ユジノサハリンスク総領事 館に異動が決まったのである。 Aさんは異動の件をつい、なじみのホステスに話してしまい、 彼女を通じて、それを知った唐は、掌を返したようにAさんを 数日にわたって脅迫した。 我々に協力しなければ、ホステスとの関係を領事館員だ けでなく、本国にバラす。お前とホステスとの関係は、わ が国の犯罪に該当する。・・・ まぁ、いい。お前がユジノサハリンスクに行っても付き 合おう。我々はロシアについては色々知りたい。我々は一 生の「友人」だからな。 ■3.「国を売ること」はできない■ こう脅しながら、唐がAさんに要求したのは、日本の暗号シ ステムだった。Aさんは、領事館と本省との通信を担当する ただ一人の「電信官」だった。業務の中でもっとも重要なのが、 「秘」「厳秘」の公電にかける暗号の組立と解除だった。電文 を「暗号コード」で変換し、衛星を経由して日本に送る。逆に 日本からの電文をその「暗号コード」で解読する。 中国の情報機関は、衛星経由でやりとりされる通信を傍受し ており、その「暗号コード」が入手できれば、領事館と外務省 とのやりとりをすべて把握できる。 Aさんが異動すると聞いた唐は焦り、執拗に脅迫した。電信 官として暗号コードを渡すことは、「国を売ること」になる。 それをAさんは自らの命を絶つことで、拒否したのである。 Aさんの死を確認した杉本総領事は外務省本省に報告すると ともに、館員をすぐに「かぐや姫」に向かわせた。しかし、す でに唐はもちろん、ホステスも姿を消していた。 ■4.「ハニー・トラップ(蜜の罠)」■ Aさんを脅迫した中国情報機関の手口は、「ハニー・トラッ プ(蜜の罠)」と呼ばれる古典的なものである。冷戦初期にソ 連のKGB(国家保安委員会)や、中国情報機関が使った常套 的な手段で、欧米の外交官や政治家が自殺する事件が起きた。 アメリカやヨーロッパ諸国は、60年代にその対策として、 ハニー・トラップで脅された場合、直ちに担当機関に届け出る ようにした。アメリカであれば、大使館や領事館にFBI(連 邦捜査局)やCIA(中央情報局)のセキュリティ担当官を置 き、ハニー・トラップに引っ掛かった外交官は、彼らに届け出 て、包み隠さず事態を話せばよい。 セキュリティ担当官は、醜聞は公開せず、処分もしないとい う事を前提に、対策を指示する。ときには、その外交官に脅迫 に従う振りをさせて、相手がどんな情報を欲しがっているのか 探らせることもある。 さらには、わざと真実の情報を渡して、相手の信頼を掴んで おき、ここという時に虚偽の情報を流して、相手国の政策を誤 らせる。 70年代に入ると、欧米諸国ではこうした防諜システムが当 たり前になって、ハニー・トラップは効果がないとして使われ なくなった。 こんな古典的な手口に乗るような国は、今や日本ぐらいしか ない。欧米諸国で30年も前に実施している「ハニー・トラッ プ」対策が実施されていれば、Aさんが自殺する事もなかった のである。[2] ■5.「諜報戦争の備えを怠れば、、、」■ Aさんの例は氷山の一角に過ぎない。内閣情報調査室室長だっ た大森義夫氏は、こう語っている。[3] 私は1963年に東京大学を出て警察庁に入り、警視庁に配 属されました。その頃、大学のクラスメイトだったH君が 自殺しました。H君は外交官の名門出で、自身も外務省に 入りました。ドイツ語は教授よりもうまく、とても優秀で した。 彼も諜報工作、今回の事案と同じく女性を使った「ハニ ー・トラップ」に引っかかったと我々は聞かされました。 場所は当時、東西冷戦が火花を散らすベルリンでした。 ・・・ あれから四十年余の歳月が流れました。私は友の死を想 うと同時に、彼が外交官として順調に出世していたらどう なっていたか? と思います。諜報戦争の備えを怠れば有 為な人材の生命だけでなく、国家利益の長期にわたる流出 につながるのです。 H君以外にも、あるいは自殺に至らなくとも、旧ソ連東 欧圏を中心に、日本人の「被害」は私の聞いているだけで も何件もあります。旧ソ連KGB要員で1979年に日本を経 由して米国に亡命したスタニスラフ・レフチェンコの米国 議会における公式証言によっても、日本人公務員、政党関 係者、ジャーナリストなど多数が「獲得」され、金銭報酬 と引きかえに日本の機密を売り渡していたのです。 ■6.国を売った「ミーシャ」■ 一国の中枢に潜り込んで、出世し、外国に機密を売ったり、 場合によっては政策までねじ曲げてしまう人間を、イギリス情 報部の言葉で「モグラ」と呼ぶ。AさんやH君が自殺せずに、 そのまま国家機密を売り渡していたら、その「モグラ」になっ ていた処である。 最近、公開された旧ソ連時代の公文書では、KGB史上、最 も特筆されるべき「ハニー・トラップの成功事例」が明かされ ているが、それも日本外交官が「モグラ」となったケースであっ た。 「ミーシャ」というコード・ネームで呼ばれている、日本人外 交官は1970年代にモスクワの日本大使館で、Aさんと同様、電 信官を勤めていた。そして、ハニー・トラップに引っかかり、 モスクワ時代にKGBに機密情報を流し続けた。 ミーシャは、その後、帰国して、本省で電信暗号関係のより 重要なポストについた。KGB東京支局は、何人ものKGB部 員を専属としてつけた。この頃には、ミーシャは大金を報酬と して受け取り、積極的に情報提供を行うようになっていた。 東京の外務省本省と全世界の在外公館との文書が、全てKG B側に流れた。さらにミーシャは日本の暗号システムもKGB に知らせていた。ミーシャのもたらす情報は、常にクレムリン のトップまで報告されていた。特に重要なのは、ワシントンの 日本大使館が本省に送ってくる情報で、アメリカ高官の情報や、 米ソ関係、NATO関連の情報がソ連に漏れていた。Aさんや H君と違って、ミーシャは金目当てに国を売ったのである。 前述のレフチェンコ証言でKGBの東京支局は機能停止に陥っ たが、ミーシャの存在は暴露されなかったので、闇から闇に葬 られてしまった。今頃は、多額の退職金と年金を貰って、幸福 な晩年を送っているかもしれない。 ■7.「外務省としては何も手を打っていない」■ 「モグラ」は現在の日本にも大量に生息しているようだ。 昨・平成17(2003)年、中国のシドニー総領事館の一等書記 官がオーストラリアに亡命する事件が起きた。彼は日本国内に も現在1千人を優に超える中国のスパイが活動していると証言 している。[2] また、ある外務省職員は匿名で次のような内部告発をしてい る。[3] 彼が自殺したからこうして発覚したのですが、こういう 「ハニー・トラップ」を受けている大使館員はけっこうい ると聞きます。氷山の一角なんです。何度も中国に勤務し ているキャリアで工作を受けていると噂されている人はい ます。でも外務省としては何も手を打っていない。 ましてや、今回のことはノンキャリアの身に起こったこ とで、面倒くさいなくらいが、上の感覚じゃないんですか、 正直なところ。 そういうことにたいして、チャイナ・スクールの若手や ノン・チャイナスクールの人たち、われわれノンキャリア のなかには、猛烈な不満を持っている人たちが多いことは 確かです。私だってそのうちの一人です。 いずれにせよ、早急に求められているのは、カンウンタ ー・インテリジェンスのルール確立です。でなければ、自 殺までした彼が浮かばれないと思います。 ■8.事件を握りつぶそうとした外務省■ 「何も手を打っていない」外務省は、今回のAさん自殺事件で も、まさに「面倒くさいな」とでも言いたげな対応しかしてい ない。 A領事自殺の数日後、調査チームが派遣され、約1週間にわ たって、事情聴取を行った。電信システムに異常は見られなかっ たが、念のために、暗号システムを変更した。そして、最終的 に、「A領事の自殺の原因が、中国の情報機関当局の脅迫によ ることは揺るがしがたい事実である」と結論づけた。 そして中国政府幹部に、川口外相の名前で「厳重に抗議する」 と申し入れたが、相手は「調査する」という回答のみで、いま だにまともな返事が返ってきていない。 川口順子外相は、本件を小泉首相に報告もせず、また中国政 府からまともな回答もないのに、後任の町村外相に引き継ぎも しなかった。外務省内でも厳重な箝口令が敷かれ、Aさんの名 前は翌年の外務省職員録から静かに外された。外務省は明らか にこの事件を秘密裏に葬り去ろうとしたのである。 「文春」のスクープで、事件が発覚すると、中国大使館は次の ようなコメントをそのホームページに掲載した。 中日双方はこの事件の性格についてつとに結論を出して いる。1年半たったいま、日本側が古いことを改めて持ち 出し、さらに館員の自殺を中国側関係者と結びつけている のは、完全に下心をもったものだ。われわれは、なんとか して中国のイメージを落とそうとする日本政府の悪質な行 為に強い憤りを表明する。[5] ■9.異常な外務省の姿勢■ 日中両国が加盟する「領事関係に関するウィーン条約」は第 四十条で「領事館の保護」に関して、次のように定めている。 接受国は、相応の敬意をもって領事館を待遇するととも に、領事官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害も 防止するためすべての適当な措置をとる。 今回のAさんへの脅迫は、ウィーン条約の明白な違反である。 それが「日本政府の悪質な行為」とされてしまっているのであ る。中国の厚顔無恥な姿勢は今更驚くべき事ではないが、それ にもまして、問題なのは外務省の対応である。 本来なら外務省は事件直後に、Aさんの遺書を公開して、世 界に対して「中国はこうした野蛮な工作をする国である」とア ピールするとともに、東京で諜報活動をしている中国外交官を 何人か名指しにして国外追放にするのが、外交の世界ではスタ ンダードな報復措置である。 それを、おざなりな抗議で納めてしまっては、中国は「日本 はこの件で事を荒立てたくないのだ」というシグナルとして受 け取ってしまう。諸外国は「日本は与しやすい。日本の外交官 にハニー・トラップをかけても、リスクはない」と見るだろう。 この異様な外務省の姿勢は、官僚的な事なかれ主義から来る のだろうか。あるいは、日本国内で千人を超えるという中国の 「モグラ」の一部が外務省に巣くっていて、その政策をねじ曲 げているのだろうか。いずれにしろ、外務省の体質にメスを入 れなければならない。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(042) 中国の友人 中国代表部の意向が直接秋岡氏に伝わり、朝日新聞社がそれ に従うという風潮が生まれていた。 b. JOG(044) 虚に吠えたマスコミ 教科書事件での中国と朝日の連携 c. JOG(179) 3度目のお先棒担ぎ 歴史教科書つぶしに奔走する「中国の友人」たちの無法ぶり は、真の日中友好を阻害している。 d. JOG(229) 国際プロパガンダの研究 文書偽造から、外国人記者の活用まで、プロパガンダ先進国 ・中国に学ぶ先端手法。 ■参考■ 1. 「中国情報機関の脅迫に『国を売ることはできない』と首をつっ た上海総領事館領事」、週刊文春、H18.01.05 2. 中西輝政「『形無き侵略戦』が見えないこの国に未来はあるの か」、『正論』H18.03 3. 大森義夫「上海領事自殺事件は日本の国家的敗北だ」 『WiLL』H18.03 4. 「上海領事自殺事件 外務省ノンキャリアが内部告発!」 『WiLL』H18.03 5. 佐藤優「中国の国権侵害に外務省はどう対応したか」、 『正論』H18.03 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「中国の『密の罠』 〜 上海領事・自殺事件」に寄せられた おたより ヤマトさんより 自ら命を絶った外務省職員の方のご冥福をお祈りいたします。 それにつけても日本の外務省や親中派の代議士の情けなさは いったいどうした事なのでしょう。橋本元総理の中国人女性問 題に代表されるように代議士も「ハニー・トラップ」されてい るのではないかと勘ぐりたくなります。 先日、旧軍人の方の話を聞く機会がありました。『戦前・戦 中にかけて自分も「ハニー・トラップ」されかかったが難を回 避することができた。』と。赴任した先の軍閥の長の命を受け て女性が派遣されるのだそうです。 このように古典的な方法に今でも引っかかってしまう日本外 交の幼稚さがとても心配になります。日本の関係機関が「ハニ ー・トラップ」の解決策を明示しないかぎり、いつまで経って も中国に弱点を握られたままになって「親中派」は増大してい くだけでしょう。「ハニー・トラップ」された代議士が真実を 語ってくれたら、その人こそ真の日本人だと思いますが・・ ・・・・。 「頑張れ日本」さんより 近年の日本と中国、北朝鮮の関係を見ていると、真面目な日 本が姦計謀略国家相手に、素手で対応しているように見えます。 中国で自殺した領事館員、イージス艦機密情報持ち出し犯人、 亡くなった元首相には全て中国女性のスパイが付いていました。 日本の中国進出企業には、大勢のスパイが従業員として雇用さ れ、企業の機密情報が、中国側に筒抜けになっている事を知る 経営者は、どの位存在するのでしょうか? わが国の政治家や 企業経営者の危機意識の希薄さを悲しく思います。20代から 海外で仕事をしてきた私には、日本人の呑気さが心配です。安 倍さんが首相になられて、日本は少しずつ変わってきていると 思いますが、早く日本でも諜報機関のグレイドアップが求めら れていると思います。 ■ 編集長・伊勢雅臣より 「国防」を忘れてしまったのが、安倍首相の言う「戦後レジー ム」の一つですね。© 平成18年 [伊勢雅臣]. 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