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社説2 人民元の上昇を構造改革へ(4/13)

 中国の通貨・人民元の対ドル相場が10日、2005年7月の切り上げ以後初めて、1ドル=6元台に上昇した。世界の貿易不均衡の是正を促す動きとして評価はできるが、何よりも中国国内の構造改革につなげていくことが大事だ。

 人民元の急速な上昇を避けるため中国政府はドル買い介入を繰り返してきた。結果として大量の人民元が市中に流れ込み、不動産価格の高騰や昨秋までの株価急騰をもたらしてきた。割安な人民元は巨額の貿易黒字を生む一因ともなってきた。

 2月の消費者物価上昇率が前年同月比8.7%と高水準になるなど、インフレ懸念も強まっている。中国政府が元の上昇加速を容認しだしたのは、こうした一連の経済の矛盾を和らげるためだ。

 11日の7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議のまさに前日に、六元台入りを演出したことは、日米欧からの一層の元高を求める声をかわそうとした思惑がうかがえる。

 元の上昇がなお不十分との見方は根強い。05年7月からの対ドル上昇率は約18%。この間、主要貿易相手国に対するドルの名目実効為替相場は15%下がっており、実態は元高というよりドル安だ。

 同じ期間に対円では7%強の上昇にとどまる。ユーロに対してはかえって9%下がっている。中国政府は市場原理を取り入れた金融・為替制度の改革をさらに進めるべきだ。

 気掛かりは中国経済変調の兆しである。インフレの一方で上海総合株価指数は07年10月の最高値から4割も下がった。一部の都市では不動産が急落したとの情報もある。

 今ここで中国経済が急減速すれば、米国景気の後退懸念に揺れる世界経済に新たな衝撃となるだけに、心配だ。外需に頼らない成長に向けて、中国政府は個人消費を一段と促す構造改革を急ぐときである。

 インフレ率を差し引いた実質の預金金利はマイナスなのに、将来の生活不安から、過剰貯蓄が続いている。豊富な財政収入を医療や年金など社会保障に振り向け、所得の低い国民も安心して消費にお金を回せるようにすべきだ。効率的な資金配分へ金融市場の自由化を加速することも中国自身のためになるはずだ。

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