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2008年04月13日(日曜日)付

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G7―バブルには治療も予防も

 米国の金融市場の動揺は、1930年代の大恐慌以来の深刻なものという認識が広まっている。そんなさなかのワシントンで主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれた。

 G7では、日米欧の金融当局者による金融安定化フォーラム(FSF)が報告書を出した。これを受け、金融機関の自己資本の充実を促し、情報開示を徹底させることなどで合意した。

 今回の金融危機の一因は、住宅への融資を証券化して転売し融資元のリスクを小さくしたため、融資の際の審査が甘くなったことにある。これらを組み合わせた複雑な証券化商品のリスクも、過小に評価されていた。

 こうした金融商品を含めて情報開示を徹底する方針は、遅すぎたとはいえ、再発防止のために不可欠だ。金融業界には規制強化に反発する声も強いが、今回の大混乱は業界の自主的な努力の限界を示している。当局が規制を強めるのは当然だろう。

 ただ、金融機関の経営を健全に保つための方策にとどまらず、もっと深く議論すべき問題がある。過去20年、日本を含む世界のあちこちで、住宅や株価などの資産バブルが頻発してきた事態をどう考え、対処するかである。

 そもそも、なぜ金融機関が甘すぎる融資をしたのか。それは、住宅価格などが上がり続けるという過度な楽観論が広がったからだ。いったんバブルが起きてしまうと、その崩壊が銀行の破綻(はたん)や貸し渋りなどにつながり、景気が長期に停滞する。

 ところが、米連邦準備制度理事会(FRB)は、この点の意識が弱い。資産価格の上昇がバブルなのかどうかは事後的にしかわからない、と考えているからだ。バブルの生成を金融政策で抑える「予防」は不適当だとし、バブル崩壊後の「治療」に専念することを基本にしている。

 00年のITバブル崩壊時に続き、今回も積極的に利下げしているのはそのためだ。しかし「治療」が度を越すと、バブル崩壊の負の影響を帳消しにするために、新たなバブルを作り出す循環になってしまう。これでは構造上の問題は解決せず、経済のバランスはますます崩れていく。

 欧州には、「予防」をあきらめず、金融政策も使ってバブル発生を防ぐよう努力すべきだとする中央銀行関係者もいる。だが米国では主流ではない。

 日本銀行の白川方明・新総裁は米国流の考えには距離を置き、限界はあるとしつつも、資産バブルによる不均衡に注意を払いながら金融政策を行うことが望ましいと考えている。

 長期間にわたり低金利が続くという期待が、世界的なバブル頻発の原因の一つといわれている。それをどう解消していくのか。G7は今後、こうした本質的な議論も深めていくべきだ。

食糧高騰―市場の暴走が飢餓を生む

 地球上を妖怪が歩き回っている。食糧不足という妖怪だ――マルクス・エンゲルスの「共産党宣言」流で言えば、こうなるだろう。

 世界中でコメや小麦、大豆、トウモロコシなどの値段が暴騰している。香港ではコメが売り切れ、カイロでは政府支給による格安のパンを求めて長蛇の列が続いている。

 世界一、二のコメ輸出国であるタイやベトナムが相次いで輸出を規制した。カンボジアでは自国のコメが高値で外国に買い占められてしまい、国内に回らなくなった。

 国連の世界食糧計画(WFP)によると、援助用食糧の価格は昨年6月から55%も上がった。必要な量を賄うことができなくなり、各国に資金の追加拠出をアピールした。ところが、この1カ月でさらに2割も上がってしまったという。「まるでツナミのような緊急事態だ」と、訪日したパウエル事務局次長は述べた。

 なぜ、いま、食糧不足なのか。

 確かに、オーストラリアの干ばつなど、主要農業国の不作が重なった。中国やインドといった人口大国で食生活が変わり、肉の消費と飼料の需要が急増したこともある。トウモロコシなどの穀物を、ガソリン代わりのバイオ燃料に転用し始めた影響も大きい。

 だが、今回の事態を招いた要因として何より注目されるのは、投機資金が食糧市場に流れ込んでいることだ。米国の金融不安を機に金融・株式市場から引き揚げられた資金が穀物などに向かう。価格が上がり、それがまた投機資金を呼び込むという悪循環である。

 その結果、食糧輸出国は売り惜しみをし、輸入国は買い占めに走る。世界の食糧生産は増えているという現実があるのに、貧しい国、貧しい人々には手が届かなくなってしまうのだ。市場の暴走というほかない。

 日本の私たちも、その余波を肌身で感じさせられている。パンや即席めん、乳製品などの値上げラッシュである。だが、いちばんの被害者は最も弱い立場の人たちだ。

 たとえば、紛争が続くスーダン。難民キャンプにいる200万人への食糧支援がおぼつかない。このままではさらに新たな難民が出る恐れもある。

 途上国の都市の貧困層にも飢餓が広がっている。食品の値上がりで食事の回数や量を減らす世帯が急増している。アフリカなどの一部地域では、暴動が起きるほどの深刻な事態だ。

 食糧の値段や供給は市場が調整するが、それが人々の生存まで脅かすことがないよう、国際的なセーフティーネットをもっと拡充する必要がある。

 先進国の投機と無策が人道危機を引き起こしている。飢餓の広がりを防ぐために、日本をはじめとする先進国は緊急支援に動かねばなるまい。

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