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医療事故調

 医療事故が疑われる死亡事例の原因を公平な立場で究明する調査組織。国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会にならい「医療事故調」と呼ばれる。厚生労働省は、05年10月から日本内科学会が始めた原因究明に関するモデル事業の結果を踏まえて具体化させる方針だったが、予定を前倒しして昨年4月、専門家による検討会を設置した。

医療事故調 検討進む 「発生なぜ」解明に期待 専門家の目で真相にメス 遺族からの依頼も可能に

2008年4月13日掲載)

 医療事故の原因を調査する専門組織(医療事故調)の創設作業を政府が進めている。「なぜ事故は起きたのか」「病院は真相を隠そうとしているのではないか」。患者や家族が求める公正な原因究明や再発防止は実現するのだろうか。

 ●悲嘆・混乱
 「病院から誠意のない対応を受け、絶対許せないという気持ちだった」。3月、東京都内で医療事故被害者らのグループが開いた集会で豊田郁子さん(40)は力を込めた。
 豊田さんは2003年3月、長男の理貴ちゃん=当時(5つ)=を医療事故で亡くした。都内の病院で入院から約5時間後の急死。腸が2カ所でねじれた重症の腸閉塞(へいそく)だった。苦痛を訴えていたのに、病院側は適切な治療をしなかったという。
 悲しみと混乱の中、豊田さんが知りたかったのは「息子はなぜ死亡したのか」「医師は全力を尽くしてくれなかったのか」ということ。しかし、病院側は「医師は最善を尽くした」と繰り返すだけ。当初は謝罪の言葉すらなかったという。

 ●不満・萎縮
 もし家族が医療事故に遭ったら…。病院側がすぐにミスを認めて謝罪する例もあるが、豊田さんのように医療機関の壁の厚さを痛感させられることは珍しくない。「真相を知りたい」と警察に届けたり、裁判に訴えたりする人もいるが、期待通りの結果が得られるとは限らない。
 豊田さんの場合、病院相手の訴訟は「双方が勝ち負けを争う方法では解決にならない」と断念。警察に被害届を出したが、捜査状況はほとんど教えてもらえず、最終的に医師は不起訴になった。
 一方、医療関係者の側にも捜査機関の介入や医療訴訟の多発に不満がある。トラブルを避けようという気持ちが強くなり「医療が委縮している」との指摘もある。
 こうした中、国による初の死因究明組織として注目されるのが、厚生労働省を中心に検討が進む「医療安全調査委員会(仮称)」。「医療事故調」と呼ばれ、委員は医師や法律家、患者の立場を代表する市民らで構成。遺体の解剖やカルテなどの分析、関係者の聞き取りを通じて事故原因を明らかにする仕組みだ。
 厚労省は2010年のスタートを目指し、昨年4月に有識者による検討会を立ち上げた。医療事故被害者の代表として豊田さんも委員となった。

 ●公正・中立
 新制度で医療現場はどう変化するのか。
 事故が疑われる死亡事例が発生した場合、現在は医師法の規定で、医療機関は24時間以内に警察に「異状死」として届け出なければならない。まず、警察が故意や過失などの事件性がないかどうかを調べる。
 これに対し、新制度では医療機関は警察ではなく、事故調への届け出を義務付けられ、遺族も調査依頼が可能になる。国が設置する公的な機関が「公正・中立」を基本に原因を調査。その結果、医療機関側にミスがあった場合、事故調は再発防止策を提言する。医師個人や医療機関は行政処分の対象となる。
 豊田さんの例では、警察が行政解剖結果を明らかにしなかったことを理由に、病院側は「死因が分からない」とミスを認めず和解まで約2年半かかった。「当時、事故調のような組織があれば、病院の対応も変わっていたはずだ」と豊田さん。医療の専門家ではない警察と比べ「事故調による調査結果は、医療機関側も受け入れやすい」(厚労省関係者)という利点も期待されている。
 検討会で豊田さんは、遺族にも分かりやすい手続きや遺族と病院との対話の必要性など、新組織に積極的に注文を付けている。「医療事故の原因をきちんと究明した上で遺族と向き合う。それが当たり前のこととして医療界に根付いてほしい」。それが願いだ。

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