文部科学省は二〇〇七年度版文部科学白書を公表した。「教育基本法改正を踏まえた教育改革の推進/『教育新時代』を拓(ひら)く初等中等教育改革」を特集テーマとしている。
安倍政権下の〇六年十二月、教育の根本的な理念や原則を定める教育基本法が、約六十年ぶりに改正された。教育の目標として、公共の精神や伝統・文化の尊重、我(わ)が国と郷土を愛することなどが新たに盛り込まれた。これを受け、学校教育法など教育三法の改正をはじめ教育改革が相次いで打ち出された。
教育は、明日の日本を担う子どもたちをはぐくむ重要なものである。大きな変化に対し、白書が特集として焦点を当てたことは評価できよう。文科省の判断、今後の具体的な方針、疑問や懸念への対応などが示されるものと期待した。
しかし、白書は事実関係を述べるにとどまった感じが否めない。特集の中で七ページにわたって記された指導要領の改定に関する項も、その一つである。
新指導要領は教基法の改正のほか、「ゆとり教育」路線が学力低下の要因として批判を浴びたことなどを受け、小中学校で「総合的な学習の時間」が削減され、授業時間数や学習内容が増やされる。白書は改定の基本的な考え方について、現指導要領の「生きる力」をはぐくむという理念が、ますます重要になっているとする。
その上で、「ゆとり」か「詰め込みか」の二項対立でなく、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着と、これらを活用する思考力・判断力・表現力の育成を車の両輪とする。相互に関連させながら伸ばしていくために、授業時間数を増やすなどとしている。しかし、知識偏重教育に戻って逆効果にならないかなど指摘される懸念には答えていない。
文科省が三月二十八日付で告示した新指導要領は、二月に公表された改定案を修正して総則に「我が国と郷土を愛し」との文言を加えるなど愛国心教育を強調したものとなった。賛否ある問題を、なぜ土壇場で基本的な方針を示す総則にあえて加えたのか。白書の作成時期もあっただろうが、告示も〇七年度のことである。特集と位置付ける以上、きちんと記す必要があろう。教育現場での混乱が心配されるだけになおさらだ。
特集ではないが、沖縄戦集団自決をめぐる教科書検定問題も「公表後、さまざまな意見が寄せられた」など簡単に事実関係を記しただけ。教育問題には国民への分かりやすい説明が欠かせない。
韓国の総選挙は与党ハンナラ党が過半数の議席を獲得した。二月末に就任した李明博大統領にとっては政権基盤が強まり、安定した国政運営への道筋が整ったといえる。
国会は定数二九九で、ハンナラ党は改選前から四十一議席増の百五十三議席を得た。ハンナラ党を離党した李会昌元首相率いる自由先進党が十八議席、ハンナラ党の朴槿恵元党代表に近く党公認候補から漏れて離党した議員らでつくる「親朴連帯」が十四議席を確保するなど保守陣営が大幅に勢力を拡大した。
ただ、李大統領と対立する朴元党代表に近い議員は、党内外で五十人以上が当選したとみられ、今後の政権運営では朴氏の動向に目が離せない。
一方、盧武鉉前大統領の流れをくむ野党の統合民主党は八十一議席で、五十五議席もの大幅減となった。改革政治を進めた前政権への国民の失望が、李政権発足や総選挙での保守系勝利につながったといえよう。
悪化していた日韓関係は、李大統領の就任式典後の福田康夫首相との会談で、日韓新時代に向けて関係を強化していくことで一致している。今回の総選挙の結果を受け、空席だった駐日大使に、ハンナラ党国会議員で韓日議員連盟副会長兼幹事長を務める知日派の権哲賢氏の起用が内定した。
また、三年半ぶりとなる日韓知事会議が十日、全国知事会会長の麻生渡福岡県知事らが参加してソウル市内で開かれ、文化、観光、経済など多様な分野で「安定した草の根交流」を進めることで合意した。会議に先立ち麻生知事らは李大統領と会談し、意見を交わした。
二十日には李大統領が初めて来日する。シャトル外交を軸に関係改善への足取りをより確かなものにする必要がある。
(2008年4月12日掲載)