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【やばいぞ日本】第2部 資源ウオーズ(9)「燃える氷」中韓、虎視眈々
深海底の地中にメタンガスが凍ってシャーベット状になって分布している。「燃える氷」メタンハイドレート(MH)である。日本近海だけでも日本の現在の天然ガス消費量の100年分はあると推定される。この新エネルギー源を日本よりも早く自国のものにしようと、中国と韓国が目の色を変えている。
中国は今年5月1日、南シナ海北部でMHの採取に成功した。米、インド、日本に次いで4番目だ。「国家を総動員してのMH開発だ。中国は確実に日本に追い付いてきている」と経済産業省資源エネルギー庁幹部は驚きを隠さない。
MHの存在が世界的に知られたのは1800年代。欧米諸国が1960年代から本格的な研究を始め、日本も1970年代に参入した。
中国のMH開発の歴史は新しい。本格的研究が始まったのは1990年代後半だ。それが、わずか10年足らずで海底のMH採取に成功した。驚いたことに、中国は間髪を置かずに実用化に乗り出した。
MH採取技術や機器を開発した専門家で、北京政府のMH政策指南役の王維煕・中国地質大学客員教授が言う。「海南省(島)の三亜市に大規模なガス精製施設のほか、香港まで海底を通るパイプラインの建設を計画している」。
三亜から香港までは約800キロと、世界有数のパイプラインとなる。MHからメタンガスを分離抽出してパイプに流す。MH生産コストは高く、天然ガスに比べ経済性は圧倒的に不利だ。しかもパイプラインの建設費は膨大だというのに、採算性を度外視してまで中国は突っ走る。
これは、中国が98年時点で「石油・天然ガスに代わる新たなエネルギー資源の開発は急務」(当時の朱鎔基首相)との危機感に基づく国家戦略があるためだ。
2006年8月、中国の経済政策を立案する国家発展改革委員会が「中国の石油代替エネルギー発展概況」を発表し、10年で8億元(約120億円)のMH実用化への研究開発費を計上した。
中国共産党の海南省委員会機関紙「海南日報」によると、中国石油化工、中国石油天然ガス、中国海洋石油という中国石油業界の3大国有企業の担当者はこのほど海南省を訪れ、パイプラインや精製施設などの建設候補地などを視察した。建設は3社合同プロジェクトとして総額で約100億元(約1500億円)に達するという。
中国ばかりではない。韓国も今年6月24日、同国南東部、浦項の北東約135キロの日本海でMHの採取に成功した。韓国政府は2000年から4年間、日本海の全海域にわたって、資源探査のための広域探査を行った。
その結果、同国のガス消費量の30年分に当たる約6億トンのMH埋蔵を予測した。韓国政府は2014年末までに計2257億ウォン(約300億円)を投入し、探査と商業生産技術を開発し15年から本格生産に入るという。
日本は実用化に向け、経済産業省主導で、産学官一体の研究機関「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」を結成し、16年の商業化を一応目指しているが、民間は「MHなんて夢のまた夢」(石油資源開発幹部)。投資リスクや商業化の困難さをみて経済産業省系の独立行政法人の行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)」まかせだ。「エネルギー資源への関心の高まりの中で、MHを予算獲りの口実にしているだけ」(元経産省幹部)というのが本音で、省益の延長でしかMH開発を見ていない。
日本はMHという「豊穣(ほうじょう)の海」を有しながら、政府は縦割り、民間はバラバラ。何よりも国家戦略が不在だ。(相馬勝)
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≪中国探査は軍艦の護衛付き≫
「燃える氷」メタンハイドレート(MH)は、石油換算で約1000年分という膨大な量が世界の海底約10分の1に埋蔵されていると予測される。その争奪戦は、下手をすると石油以上の国家間の紛争の火種になりかねない。理由はMHの二つの利点にある。
まず、成分は大半が天然ガスと同じメタンガスであるため、石油などと違い、燃やしても二酸化炭素の排出量は少なく、地球温暖化対策にもなる「クリーンエネルギー」であることだ。
それに加え、MHが自国の周辺海域にあるため、「エネルギー安全保障」に資すると各国が考えるためだ。
中国の場合、中東やアフリカに石油供給源を求めてもシーレーンに不安がつきまとう。それだけにMH開発への関心を高める。
中国にとって南シナ海はベトナムやフィリピンなどとの領海をめぐる係争地帯でもある。在京中国筋は「中国地質調査局の調査船は中国人民解放軍の軍艦の護衛付きで、MHの探査を行っている」と語る。力の行使も辞さない構えのようだ。
日本周辺では沖縄・南西諸島周辺海域にMH層が存在している。とりわけ大規模なMH層が、その海域の南西諸島海溝に存在していることが確認されている。
南西諸島の西側には沖縄トラフという海底の窪みがある。中国は大陸から沖縄トラフまでを一つの大陸棚として、東シナ海大陸棚全域に対する主権的権利を主張し、日本にはその権利はないとしている。
ところが最近の研究では、東シナ海大陸棚を形成する大陸性地殻は南西諸島を越えて、南西諸島海溝にまで延びている。東シナ海の大陸棚は中国が主張するように沖縄トラフでは終わっていない。日本が主張する日中の中間で大陸棚を二等分する中間線論の正しさが証明されているのだが、中国は中間線を一切認めようとしない。
中国は現在、南シナ海を中心にMH層の開発をしているが、いずれ東シナ海に関心を向けるのは間違いないだろう。
一方、韓国が現在、開発を急いでいるのは鬱陵島周辺だが、この東南方90キロには日本固有の領土で、韓国が占拠している竹島(韓国名・独島)がある。
韓国政府の発表によると、韓国は年内に鬱陵島のほか、竹島など日本海の5つの海域で、MHの試掘を始めることにしている。韓国メディアの中には、「日本が独島(竹島)の領有権を執拗(しつよう)に主張する主な理由の一つはMHの存在である。鬱陵島や竹島の周辺海域に埋蔵されている6億トンのMHを確保するための戦略だ」(今年1月26日付「韓国経済新聞」電子版)と報じているところもある。
竹島海域周辺には大規模な海底油田が存在しているともいわれる。
海上保安庁幹部は「日本、中国、韓国のMH開発競争が本格化すれば、領土問題が激化する可能性が高い」と警戒するが、自国の海洋権益をいかに守るかという戦略をいまだに構築していない日本が後手に回るのは必至だ。