わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(4)
2008年4月10日(木)14:53(3から続き)
遺骨収集に関心をもった理由
山際 野口さんは25歳のときに「七大陸最高峰世界最年少登頂記録」を樹立されて以降、エベレストや富士山のゴミ問題を訴えたり、地球温暖化による氷河の融解防止活動を行なうなど、積極的な活動を続けていらっしゃいます。3月にはフィリピンに大東亜戦争で亡くなった日本兵の遺骨収集にも行かれた、と伺いました。登山と環境のつながりは理解できますが、どうして遺骨収集に関心をもたれたのですか。
野口 2005年のヒマラヤ遠征のとき、8000メートル付近で遭難しかけて、「いよいよここまでか」と思い、遺言を書いたんです。書き終わってボーッとしていたとき、「僕は好きに生きているからいいけれど、戦争に行けといわれて亡くなった人は、どういう気持ちだったんだろう」とふと思いました。即座に事務所の人間に衛星電話をつないで、「もし生きて帰れたら、次のテーマは遺骨収集だ」と伝えた。それがきっかけです。
しかし帰国後にいろいろ調べてみたら、まず遺骨収集隊自体が日本にほとんどない。実行に移せないまま3年が過ぎ、ようやく今回の機会を得ました。
山際 足を運ばれた印象はいかがでしたか。
野口 壮絶でした。フィリピンのセブ島を中心にいろんな離島に行きましたが、今回行ったのは調査隊が1回も入ったことがない、初めて発見された場所で、ある洞窟のなかに入ったら、少なく見積もっても200〜300体の遺骨が出てきた。洞窟から出るときにふと振り返ったら、僕は霊感のない人間ですが、遺骨の山から「オレたちは60年、ここにいるんだ。おまえは帰るのか?」といった、なんともいえない気配を感じましたね。
新聞記者も1人同行していて、彼に「なぜ日本の新聞は遺骨の問題をあまり書かないのか」と聞いたら、「あれは日本の支配戦争で、悪の戦争だった。アジアに銃剣を向けて苦しめた彼らの遺骨を回収するのは、最後の最後でいい」といわれました。アジアに対する補償などをその前に行なわなければ、というわけです。
しかし現場の兵士からすれば「戦争に行け」といわれてフィリピンに行ったわけで、きっと最後は「天皇陛下万歳!」ではなく、「母ちゃんに会いたい」「家族に会いたい」といって死んでいったはず。本当に日本という国は冷たいな、としみじみ感じましたね。
山際 チベットに対してだけではなく、自国民に対してもまた、日本人は冷たいんですね。
野口 触れないほうが無難、という構図がここにもあって、遺骨の収集活動は厚生労働省の管轄ですが、海外のことだから、外務省の協力も必要です。しかし外務省の人はそれをすごく嫌がる。理由はただ「厄介だから」。
山際 拉致問題などにしても同じです。戦後60年間、この国は病理に侵されてきたのかもしれません。
野口 だからこそ、さまざまなかたちで声を上げていくことが大事。さもなければ物事は動かない。僕はそう思っているんです。
遺骨収集に関心をもった理由
山際 野口さんは25歳のときに「七大陸最高峰世界最年少登頂記録」を樹立されて以降、エベレストや富士山のゴミ問題を訴えたり、地球温暖化による氷河の融解防止活動を行なうなど、積極的な活動を続けていらっしゃいます。3月にはフィリピンに大東亜戦争で亡くなった日本兵の遺骨収集にも行かれた、と伺いました。登山と環境のつながりは理解できますが、どうして遺骨収集に関心をもたれたのですか。
野口 2005年のヒマラヤ遠征のとき、8000メートル付近で遭難しかけて、「いよいよここまでか」と思い、遺言を書いたんです。書き終わってボーッとしていたとき、「僕は好きに生きているからいいけれど、戦争に行けといわれて亡くなった人は、どういう気持ちだったんだろう」とふと思いました。即座に事務所の人間に衛星電話をつないで、「もし生きて帰れたら、次のテーマは遺骨収集だ」と伝えた。それがきっかけです。
しかし帰国後にいろいろ調べてみたら、まず遺骨収集隊自体が日本にほとんどない。実行に移せないまま3年が過ぎ、ようやく今回の機会を得ました。
山際 足を運ばれた印象はいかがでしたか。
野口 壮絶でした。フィリピンのセブ島を中心にいろんな離島に行きましたが、今回行ったのは調査隊が1回も入ったことがない、初めて発見された場所で、ある洞窟のなかに入ったら、少なく見積もっても200〜300体の遺骨が出てきた。洞窟から出るときにふと振り返ったら、僕は霊感のない人間ですが、遺骨の山から「オレたちは60年、ここにいるんだ。おまえは帰るのか?」といった、なんともいえない気配を感じましたね。
新聞記者も1人同行していて、彼に「なぜ日本の新聞は遺骨の問題をあまり書かないのか」と聞いたら、「あれは日本の支配戦争で、悪の戦争だった。アジアに銃剣を向けて苦しめた彼らの遺骨を回収するのは、最後の最後でいい」といわれました。アジアに対する補償などをその前に行なわなければ、というわけです。
しかし現場の兵士からすれば「戦争に行け」といわれてフィリピンに行ったわけで、きっと最後は「天皇陛下万歳!」ではなく、「母ちゃんに会いたい」「家族に会いたい」といって死んでいったはず。本当に日本という国は冷たいな、としみじみ感じましたね。
山際 チベットに対してだけではなく、自国民に対してもまた、日本人は冷たいんですね。
野口 触れないほうが無難、という構図がここにもあって、遺骨の収集活動は厚生労働省の管轄ですが、海外のことだから、外務省の協力も必要です。しかし外務省の人はそれをすごく嫌がる。理由はただ「厄介だから」。
山際 拉致問題などにしても同じです。戦後60年間、この国は病理に侵されてきたのかもしれません。
野口 だからこそ、さまざまなかたちで声を上げていくことが大事。さもなければ物事は動かない。僕はそう思っているんです。
-
月刊誌『Voice』は、昭和52年12月の創刊以来、激しく揺れ動く現代社会のさまざまな問題を幅広くとりあげ、つねに新鮮な視点と確かなビジョンを提起する総合誌です。
Voice最新号詳細 / Voice年間購読申し込み / Voiceバックナンバー / Voice書評 / PHP研究所
- 【PR】プリングルズプレゼンツ! - フィンランド旅行ほか豪華賞品が3000名に!
- 【PR】10万kmの車も値段がついた - あなたの愛車、まずはガリバーで査定!
- 【PR】口座開設キャンペーン中! - 4月7日より取引手数料0円!上田ハーローFX
関連ニュース
- わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(3)(Voice) 04月10日 14:50
- わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(2)(Voice) 04月10日 14:48
- わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(1)(Voice) 04月10日 14:43
ランキング
過去1時間で最も読まれた国際ニュース
-
わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(1)(Voice) 4月10日 14:43
-
わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(2)(Voice) 4月10日 14:48
-
わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(3)(Voice) 4月10日 14:50
-
わが聖地・チベットの苦しみ:野口健(アルピニスト)(4)(Voice) 4月10日 14:53
-
ラサ騒乱1カ月 「国際社会」と「民族意識」に板挟み(朝日新聞) 4月12日 21:02
-
ナゾの“青い集団” 聖火囲み並走、中国人警備隊(産経新聞) 4月10日 8:15
-
庁舎内で爆弾爆発させた容疑、チベット族僧侶ら9人拘束(読売新聞) 4月13日 1:12
過去24時間にブログで話題になったニュース
-
お笑いのレベルが低下した? 「一発芸人」が多いのはなぜ(ニュース畑) 4月11日 10:40
-
街中からタバコ自販機が消える?「タスポ」導入の思わぬ余波(ダイヤモンド・オンライン) 4月11日 10:35
-
市民団体3人の有罪確定へ=反戦ビラ配布で上告棄却−最高裁(時事通信) 4月11日 16:31
-
青い聖火警備員「歓迎せず」 泉国家公安委員長(朝日新聞) 4月11日 11:20
-
ナゾの“青い集団” 聖火囲み並走、中国人警備隊(産経新聞) 4月10日 8:15
-
阪神・金本が通算2000本安打達成、プロ野球37人目(読売新聞) 4月12日 19:36
-
野茂、先輩の意地…3年ぶりメジャー3回2失点1K(夕刊フジ) 4月11日 17:45
- 今週のおすすめ情報
-
←「47才の男」が使うと!
今、このシャンプーが「髪に悩む男性」の注目を浴びている。なんでも通販のみで、男性中心にすでに50万本を突破し、さらに売れ続けてると。試しに私も注文してみると…「えーっ!」と驚くほど。それは、47才の…
最新の国際ニュース
- ダライ・ラマ生家、厳しい監視下…現住の親族は事実上の軟禁(読売新聞) 4月13日 03:07
- 中台「新時代」を呼び掛け=胡主席、次期副総統と会談(時事通信) 4月13日 02:30
- 庁舎内で爆弾爆発させた容疑、チベット族僧侶ら9人拘束(読売新聞) 4月13日 01:12
- サドル師側近暗殺 イラク中部ナジャフ(朝日新聞) 4月13日 00:48
- チベットの役場爆発で9人逮捕=暴動と関連付けず−中国新華社(時事通信) 4月13日 00:32