来年5月に始まる裁判員制度に向け、最高裁は、裁判員になるのに差し支える具体的な事例をまとめた資料を作り、各地裁に送った。「卒業・入学式シーズンの美容師」「飲食店のナンバー1ホステス」など、辞退について配慮するケースを列挙、辞退を認めるかどうか裁判官が判断する際の参考にする。
最高裁は昨年9月~今年1月に全国調査を実施。762人の対象者を、職業や居住地などに応じて建設業、経営者、主婦、青森市の漁業など127のグループに分類し、裁判員になった時に(1)悪影響があるか(2)代わりの人がいるか--を分析し、選任が困難かどうか評価した。
その結果、仕込み時期の杜氏(とうじ)は「片時も離れられない」、旅館の女将(おかみ)は「連続して不在だと信頼を損ねる」という理由で、裁判員への参加は難しいとした。「子供が受験直前の主婦」「国税庁の調査に対応する管理職」なども辞退を配慮すべきケースとして挙げた。
裁判員法などによると、辞退が認められるのは▽70歳以上▽学生▽重い病気▽同居親族の介護・養育--などのほか、裁判員になることで精神上、経済上の重大な不利益が生じる場合。裁判員候補者は、初公判当日に裁判所に呼び出される前の段階でも、調査票や質問票で辞退を申し出ることができるため、裁判官が書面だけで一定の判断をできるよう事例集が作成された。
最高裁は今後、追加調査を実施し、さらに多様なライフスタイルの事例を蓄積してデータベース化する方針。各地裁も地域の実情に応じた事例を加えていくという。【北村和巳】
(業種などと参加への支障)
▽北海道美深町(遠隔地)=降雪・積雪で裁判開催都市への移動が困難
▽広島・カキ養殖業=種付け時期が1日でもずれると翌年の仕事がだめになる
▽鹿児島・種子島(離島)=祭りの際は参加者が少なくなり盛り上がりに欠ける
▽経営者=株主総会にトップがいない事態は想定できない
▽情報処理SE=システムトラブル発生時に対応が求められる
▽営業職=ゴルフや旅行などの接待は担当者の不在が認められない
▽食料品製造業=異物混入や誤表示の場合はマスコミに報道される事態に
▽テレビ出演者=オーディションは仕事を取れるかどうかが決まる重要な場
▽新聞記者=代わりが見つからなければ記者会見への出席が必須
▽鉄道業=ダイヤ改正時は担当者が繁忙
▽コンビニエンスストア=初詣でや海水浴場などに近い店舗の書き入れ時
▽一般診療所=インフルエンザ流行時や花粉症の時期は医師が繁忙
▽学校担任教師=学年初めや学年末は指導計画作成や入試指導で繁忙
毎日新聞 2008年4月12日 23時09分