(08/04/11)
米金融・証券行政の改革案
=投信評論家・寺田幸弘氏=
日銀の総裁がようやく決着をみた。G7の4月11日の会合にギリギリ間に合ったようである。代行が出席したとて何も恥じることはなかろうと思うのであるが、代行ではまずいという発言がいろいろと報道された。突発的な事情で総裁が会合の直前に欠けてしまったという場合は、代行しかあるまい。もし代行で不都合があるとすれば、それは日本中どこを探しても人材がいないという場合である。天下りの席を確保しておきたいという、切なる願いを持つグループがいるということが暴露されてしまう場合もそうである。
今年1月の拙稿でアメリカに関して注目しておきたい事項として、金融監督体制の再編、見直しの動きがあると記した。政権最終年でもあり、今年早々にもという、昨年6月27日の財務長官の発表も怪しいのではと内心思っていたが、3月31日にその青写真が公表された。アメリカの資本市場の世界における競争力を維持し、高めるためというのがその理念である。今、問題を引き起こしているサブプライム(住宅)ローンが顕在化したのが昨年の7月以降であるとすれば、6月の発表にはそれへの言及はないのであるが、31日の青写真にはその影響は色濃く表れている。
青写真に入る前に、若干の歴史と金融・資本市場監督体制に触れておきたい。
米国の銀行・証券の分離体制は、1929年の恐慌を受けて1933年以後整えられて来た。それは1980年代になし崩し的に崩れ、1999年のGLB法で金融持ち株会社が認められて終わった。その後、ITバブルや会計スキャンダルが相次いで、2002年のSOX法(企業改革法)の誕生となる。ヘッジファンドの拡大等も加わり、金融証券の手法も証券化商品、デリバティブが作り出され、規制体制が分立していては十分な対応が出来ないという見方が広がって来た。こうしたことを背景にして1998年、PWG(大統領の作業部会)が作られた。議長は財務長官。メンバーはFRB議長、SEC、CFTC(商品先物取引委員会)であり、ニューヨーク連銀や連邦預金保険局(FDIC)も協力するというものである。
現在の監督体制は次の諸機関が当っている。
1)財務省=ここは歳入の管理(微税、国債発行等)だが、紙幣印刷と硬貨の鋳造を行う。そして一部局としてOCC(銀行監督)を持ち、それとは別の機関として、住宅金融のS&L、及びSAVINGS BANK の監督者OTSを抱えている。
2)連邦準備制度と12の連邦準備銀行(FRS)=中央銀行の機能を持つと同時に、12の連銀を通じて全国の銀行をモニターする。緊急融資の窓口となる。
3)FDIC=これは預金保険機構である。
4)NCUA=これは協同組合形式の金融機関であるクレジットユニオンの預金保険機構である。
5)SEC=証券取引委員会で証券市場の監督。
6)CFTC=商品、その他先物市場の監督。
さて財務長官の提言は次のようなものである。短期、中期、長期に分けて提案している。
1)短期の提案
PWGにOCC、OTS、FDICを参加させる。預金受け入れをしない機関への連銀の貸し付けと、それらへの立ち入り検査及び銀行とは異なる監視の枠組みを作る。住宅ローン貸付業者への全国的標準を策定し、MOC(住宅ローン委員会)を創設し、住宅ローン市場を監督させる。
2)中期の提案(2〜8年かけて)
OCCとOTSを合体させる。州法下の銀行を連邦機関によって合理的に監督する。財務省に、今は州レベルでの監督しか受けていない保険会社を監督するONI(連邦保険局)を設ける。SECとCFTCを合併する。証券会社と投資顧問の規則と監督を調和させる。
3)長期の提案
現在の銀行、保険、証券、先物という縦割りでの規制体制は今日の市場実体にそぐわない。そして3つの規則当局を作る。
1つは市場の安定の衝に当たるFRS・・・金融システムすべてのリスクをモニターする役割を持つ。
2つは金融監督の衝に当たる・・・OCC、OTS、FDIC、NCUAを集合したもの。
3つは証券・先物業務の衝に当たる・・・SEC、CFTC、住宅ローン開示などを包含する。
我が金融庁は日本では既に横断的規制になっていると長官は4月8日のメルマガで語っているが、必ずしもそうではない。縦割りであろうと横断的であろうと、問題の本質は金融(債権)や証券(株・債券)を金融工学と称して、金融商品という「ギミック」に作り変え、それをもって金融産業が経済を活性化させると考えることが、つまるところ破綻に行き着くということではないだろうか。
投資家も、業者も、行政も、投資の基本に回帰する。その一点に尽きると信ずるものであるが、いかがであろう。(以上は筆者の個人的な見解です)(了)
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