第10回 投資リスクを自分の目で確かめよう(2)
2008年4月10日
(これまでの 藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」はこちら。)
前回は、値上がり/値下がりの確実性の量を測る方法に「標準偏差」があると書きました。
今回はその標準偏差の求めるために、どのようなデータを用いてどうやって計算していくのか、そして算出した標準偏差を元に、何パーセントの確率で価格変動が起きうるのかを考えていきたいと思います。
■標準偏差の求め方
分散投資に興味を持っている方であれば、「標準偏差」という言葉や考え方は既に本やウェブサイトなどでよく見かけていると思います。そういった中では各市場の標準偏差を実数(*1)で示されているケースも多いのですが、大半は実際に購入できる商品ではなく、取引所やインデックス開発元が算出している指数データを用いて算出しています。
例えば、エスジー e-indexジャパン指数に連動している「エスジー e-indexジャパンファンド」の年間コストは約1.5%(*2)。この商品を30年もの間に毎月1万円づつ積み立てた場合、指数からは約97万円の差がつけられてしまう計算になります。これでは資産運用に使える標準偏差を求めることにはなりませんので、指数データではなく、個人投資家が購入できる商品(ファンドやETF)の価額データを用いるようにしましょう。
では今度は、東証株価指数に連動しているETF「TOPIX連動型上場投資信託」の標準偏差を求めてみます。
まず、YAHOO! JAPANファイナンスなどで時系列の株価データをコピーし、これを表計算ソフト(*3)にペースト(貼り付け)します。そして、表計算ソフトの並び替え機能で日付を古い順から並べなおして、月間の騰落率(今月終値から先月終値を引いた値を先月終値で割り算)を求めていきます。最後に、騰落率をSTDEVP関数(*4)で処理すれば標準偏差が求まります。
これでTOPIX連動型上場投資信託の月間騰落率は、平均値+0.15%からおおよそ±4.41%の範囲で存在するだろうということが分かると思います。
■価格変動の範囲と的中率
さて、2001年8月から2008年3月までの傾向が今後も続くと仮定して考えた場合、「TOPIX連動型上場投資信託」の価格変動はどの程度なのか考えていきましょう。
投資の教科書では、証券の騰落率は「正規分布」に従うと仮定して考えます。正規分布とは平均値を頂点とした釣鐘状に収束する確率分布のことです。平均値からのズレが標準偏差×±1以下に収まる確率が68.26%、標準偏差×±2以下では95.44%、標準偏差×±3以下では99.74%で収まります。したがって、よほどのことがない限り「TOPIX連動型上場投資信託」の月間騰落率は-8.67%~+8.97%の間に収まる可能性が高いということですね。
先月TOPIXは新安値を更新し「TOPIX連動型上場投資信託」も1月は-8.19%、2月は-1.9%、3月は-7.75%と急落していきました。しかし、これは未だ-8.67%~+8.97%の間に収まっています。
前回「今回の暴落は(強がるまでもなく)「想定の範囲内」と知っていたはずです」と書きましたが、上記を知って投資されているなら何も怯える必要は無かった(*5)のかもしれません。
■標準偏差と正規分布は万能ではない
しかし、有価証券は商品ごとに抱えているリスクが異なりますので、標準偏差がすべてに適用できるわけではありません。また、自然界の多くの法則は正規分布に収まるのですが、実は市場の値動きは正規分布に従わないケースが多く見られます。
次回は、標準偏差と正規分布の弱点について書いていきたいと思います。
* * * * *
*1:私の場合は「第3回 合理的に資産を設計する」で企業年金連合会が公開しているデータを元にしている。
*2:2007年11月20日決算時の信託報酬および委託手数料、保管管理料を元に筆者算出。販売手数料や分配金の税金控除は考慮していない。
*3:マイクロソフト社のエクセルなど。
*4: 証券価格から値動き自体の標準偏差を推定する場合はn-1法が望ましいと考える。
しかしnないしn-1.5の適用が望ましい場合もあるのだが、これは統計学の領域に大きく踏み込む為ここでは割愛。
*5: 2008年03月23日の朝日新聞によると、投資信託に関する国民生活センターへの苦情・相談件数が過去最高に達している。
藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」
過去の記事
- 第10回 投資リスクを自分の目で確かめよう(2)2008年04月10日
- 第9回 投資リスクを自分の目で確かめよう(1)2008年03月25日
- 第8回 デイトレーダーはバカで無責任なのか?2008年02月18日
- 第7回 投資タイミングの分散テクニックを考える2008年01月22日
- 第6回 投資信託におけるオープンソースとプロプライエタリ2007年12月26日