花見のシーズンとて、井の頭公園に面した和風レストラン『金の猿』を、有さんが予約してくれた。
その日が、その土曜日だった。メンバーは、青春出版社川口氏、サンマーク出版桑原嬢、有さんと俺の4人である。
妻はお茶を入れ、ケーキを用意する。
「もう、行かないと間に合わねんじゃね?」と俺。
「え? あんただけ出かけるんじゃないの?」
妻は、有さんとゆっくり茶でも飲むつもりだったらしい。
有さんは急いで茶を飲み、ケーキを食った。
夕暮れの灯りと街灯のカクテルに照らされた桜は美しい。
これまで、慌ただしくて、花など見る余裕はなかったのだ。
やがて、言っている意味が判った。
西端から入った井の頭公園は、そこかしこに場所取りのブルーシート。
公園の中央に近づくにつれ、阿鼻叫喚の前触れが響き出す。
パルコ裏から続く通りが公園に接するあたりには、大きな空き地があるのか、人がひしめき、マドンナとボンジョビとローリングストーンズがいっきに来るのかというような群衆である。
それらを脇目に、人混みに逆らうようにして石段を上ると、その瀟洒な店があった。
広い板の間に、炬燵がセットされている。
足を突っ込むと、パワー最大なのか、めちゃくちゃ暖かい。
目の前は竹林。
いい場所である。